#05 クロスカントリー3
「救護班到着―。怪我の様子は?」
電話を掛けてきた2人を発見した。
「ああ。言う通りにしてたら痛みはだいぶ引いたみたいだ」
「それは良かった。でも足を見せてください」
足を出されて見てみるがそこにはまったく腫れている様子は見られなかった。
これは……。
「騙されましたか」
「少しお前とは話がしたくてな。こうでもしないとお前は来ないだろ」
厭らしいと言うか人好きはしない笑みを浮かべ、高崎先輩は立っている。
「否定はしませんが、要件は?」
場合によっては手加減しない。
ドン
胸元を掴まれ、行き追い任せに押されて、近くの木に背中を預ける形になる。
「なんで女が野球すんだよ!!」
「こっちは女が野球部を仕切ってるのもシャクなんだよ!!」
……そう言えば、高崎先輩が入部した時にイチャモンつけた人だっけ。
「……どうしてだと思います?」
「どうしてって……お前が野球部に何かしようとしてんじゃないのかよ!!」
「ではその何かとは?貴方達に不利益になる事に繋がっているんですか?」
「「………」」
2人は押し黙る。私は呆れた目でその2人を見てしまった。
なんだ、本当に只気に食わなくて言っただけか。
じゃあ何の問題もない。あのファンの子達と同じだ。
どうせレギュラー陣に好かれたいからやっていると思っていたりしたのだろう。
他の人達はそんな訳では無い事に気付いているのに
どうしてこの人達は分からないんだ?
「女が野球して悪いんですか?確かに私は女で野球をしています。
でも部員とは言ってもレギュラーになれる訳でも無い、公式試合には出れない」
少し間を置いて2人を見る。
「貴方達は今までの私を見ていなかったんですか?
私が監督に練習の手伝いをさせるのは
私に貴方達を強くする事が出来るから、その方法を知っているからです」
最初に監督補佐みたいなものだって言ったじゃない。
「……だけど」
新里がやっと何かを言おうと口を開いた。
「なんでお前はあの人たちにあんなに好かれているんだ!!
俺達の憧れに!!それが憎くて、
お前にあの人達の近くにいる事が出来るだけの力がある事が羨ましくて!!」
「そうだ!!あの牛尾さんが今まで練習をサボる事なんて無かった。
でもお前のためにそれをした!!」
やっと本音が出てきたか。
この人達もあの女の子達みたいに光に巻き込まれた人達。
「じゃあ。貴方達はどうしたい?」
「「はぁ?」」
2人は拍子の抜けた声をだす。変な質問したかな。
「やっと本音を知ったんだから次は何をするかの
ステップに行かなくちゃ勿体無いでしょ。
はい、どうしたい?」
「それは……レギュラーになりたいとか……」
高崎が頭から答えを導く。
「それをするには?」
次は新里に質問をする。
「強くなるために練習……」
「だったら私はそれを手伝うのみ!!
私が今したい事は十二支を強くする事。
其の為に全体が強くなる必要があるの!!」
そう、選手層が薄いと崩れるのが早い。
それを防ぐためにもレギュラー以外も強くなって貰わなくちゃ困る。
中が強くなればそれだけ頑強なチームに成長する。
「監督だけじゃレギュラーだけで手が一杯だから
そのために私がいるの!!
もちろんレギュラーの方が待遇が良いのは当たり前だけどね。
したい事がはっきりしたんだったら次はそれをして!!
私にヤキモチやいてる場合じゃ無いよ!!」
語気を強めて力説。その勢いに押されている高崎と新里。
「ヤキモチって……」
高崎が呆れた口調でを見る。
「だって言ってる事がこの前の女子とほぼ同じですよ。
一緒にされちゃ困るんじゃ無いですか?」
あっけに取られた表情の後、2人は俯いて肩を震わせ始めた。
「く……くくっ……」「た…確かに同じにされちゃ困るよな」
2人は肩を震わせ、笑い始めた。なんかムカつくな。
こっちは本気で言ってるのに。
「ふー。笑って怒りも失せたわ。悪かったな」
高崎先輩は先程の意地悪な笑みが消え、気持ちい感じになってきた。
「お前漫画の熱血キャラみたいだったぞ。想像と全然反対だ……」
新里先輩はまだ腹を抱えて笑ってる。
熱血馬鹿の反対、冷静沈着か、そっちの方が私も嬉しいが。
「冷静で馬鹿だからこそ3階から飛び降りたり、
女伊達らに野球をしたりするんですよ」
「いや、新里の気持ちも分かるぜ。お前、3本同時ノックキャッチしただろう?」
やりましたね。ド派手なやつを。
「アレがな凄くて、綺麗だった。見惚れてた奴沢山いたぜ」
「俺等はアレが出来る事に嫉妬したがな」
………そうだったの?
今度はが呆然とする番だった。
さっきまで暴言を吐いていた人達が急に変貌して
今度は自分を褒めるのだから当然と言えば当然なのだが。
「悪かったな。んでもってサンキュー」
「謝るのは分かりますが、感謝が分かりません」
どうして怒った相手に感謝?
「分からないんだったらそれでいいさ」
「まあそれで良いならいいですけど、先輩達このまま行くと野宿ですよ。
牛尾先輩他2組がもう到着したみたいです」
発信機のリモコンを取り出し、状況を教える。
「マジか?!じゃあ悪かったな、急ぐぞ高崎!!」
「おう!!じゃあな」
「頑張ってくださいねー」
「馬鹿だな俺ら」
走りながら高崎か言う。先程の事を反省しているらしい。
「ああ。先輩達が一緒にいるのは当然だ」
新里もそれに続く。
「でもって強くて脆い、だから危ない。あいつは…自分に対して害のある奴でも、
そいつの心配をしてしまうほど、優しい奴なんだな」
俺等まで、心配してくれる程に。
「だからマネが異常に過保護なわけだ」
たった数十分での見方が180度変わった。
あいつは十二支を強く出来る可能性を高い確率で持つ奴だ。
そしてあんなに真剣で、
頑張っている奴を嫌いきれる程は落ちちゃいない自分が居てほっとした。
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