#12 心







連れて来られたのは今度は使われていない第1視聴覚室。
今は壊れた機材やらダンボールやらが部屋の隅に散乱している。

「怖気づかないでココまで来た事は褒めてあげる」

「それはどうも」

今の私は余裕綽々といったところ。どうやら相手はそれが気に入らないようだ。
短気は損気なのにね。こちらには都合がいいけど。

「あんた今の状況分かってんの?」

「今回は武器持ちか。鉄の棒に三段ロッドに木刀、
バタフライナイフまで、用意周到ですこと。
そこまで評価してもらえるなんて嬉しいよ」

……下手な劇のように振舞うその様子は怒らせようとしている様にしか見えない。

実際そうなのだが。

「偉そうに!!何であんたなんかが牛尾様の隣で
笑っていられるのよ!!不公平よ!!」

「何で犬飼君はあんたとは一緒にいられるの?!
私達が近づくと逃げてしまうのに!!こんなに好きなのに!!」

「きっとあんたが誘惑しているんでしょう?じゃなかったら
なんであんたが好かれるのよ!!
偽善者の皮を被っているだけじゃないの!!!」

彼女たちの気持ちが爆発する。コレが彼女たちの本音。

しかし、彼女たちはまだ救いがある。

始末に終えないのは虐めを楽しんでいる奴等だ。

彼女たちは好きな人に振り向いてもらいたくて、同じ場所にいたくて、
だから彼らと同じように野球をしている私が憎くて、
彼らが一番格好いい姿でいるグラウンドに居られる私が嫌いなんだろう。

その気持ちを発散出来ないから、私に敵意を向ける。

彼らの輝きに負けた哀れな者たち。

でも、だからってしていい事じゃない。この事で凪が泣いた。

が怖い思いをした。自分を責めて、泣いた。

私だけだったらまだ良かったのに。

「そうなのかもね」

「何ですって?」

「私は偉そうに振舞ってる。
                        そうやって貴女達を煽り立てるため。
皆と笑える環境を持っている。
一緒にいる事が出来る。
                    野球とソフトは私を作るパーツで、それは彼らも同じだから。
不公平な事かもしれない。
                           私は自分を分かってくれる人を持っているから。
偽善者かもしれない。
                           善悪なんて、そんなものTPOでいくらでも変わるもの。

でも、渡せない」                    私はあの場所が楽しくてしょうがない。

「五月蝿いのよ」

ドスッ

 彼女らの1人が持っていた棒で私の背中を殴る。

「痛っ!!」

一応、来ると分かったので衝撃はいくらか和らげたが、まだ痛い。

「話し合って、野球部を辞めて貰うつもりでしたが、しょうがない」

リーダーが右手を上げ、周りに合図を送った。

周りの女子は棒を持ち直し、構えた。

来るか!!

右手が振り下ろされ、周りは一斉に私に向かってきた。

しかし、がら空きだ。

体制を下げ、右の方に回り込む。

追って武器振っても周りに他の武器が合って動き難い。

そうして相手側が混乱している間に囲んでいた円陣から抜け出せた。

ふぅ。宝の持ち腐れとはこの事ね。

「沢松君出てきて良いよ」

「OK!!良い画が撮れたぜ!!」

小さいハンドカメラを持った沢松が物陰から出てきた。

「ご苦労様。助かったわ」

「いや、こっちは最後なんてクンフー映画見てるみたいで楽しかったぜ!!」

「これでも薙刀と少林寺拳法初段ですから」

「騙したの?!」

リーダーの子が憤慨する。

「当たり前。こうでもしないと証拠握れないしね」

「あのカメラ取り返して!!」

他の子達に命令するが。

「そこまでだよ」

ドアの方を見ると何時の間にやら牛尾が立っていた。

「っ牛尾様?!」「どっどうして?」

「他の人たちもいるっす」

子津に続き、蛇神、虎鉄、犬飼、司馬、柿枝、夜摩狐、凪、
文芸部がドアから入ってきた。

そして文芸部は部屋のあちらこちらに仕掛けていたカメラとビデオを回収していく。

「しっかり撮れたよ!!」

「バッチリビデオ3台に殴られた時の写真5枚。音声も完璧!!」

「ご協力感謝します先輩達。さて、これらは十分に虐めの証拠になります。

先生やら保護者会に見せれば軽くて謹慎。最悪で退学処分でしょうね」

「刃物まで持ち出しちゃって、警察にも見せればうまくすれば

障害事件になりかねないよねー」


外所の言葉がさらに追い討ちをかける。


集まっていた女の子たちは見る見る真っ青になって行く。

うーんココまでうまく行くとは思わなかった……。

「ここで取引です。
1:金輪際私には最低限の公式の用事が無い限り近づかないで下さい。
2:貴女達が駄目にしたシューズとスケッチブックを弁償する事。
3:野球部、文芸部および私の知り合いに手を出さないこと。
コレを守れば私達もこれ以上騒がない」

「次、何かあったら今度は僕達が前面に出るよ」

「とりあえず、今回はの希望で我慢したけどな」

「文芸部も以下同文だ。は元々文芸部員だしな」

「之にてこの事は終了。さっさと消えて

は睨みをきかせる。

それはとてつもなく重く、恐怖を感じさせるものだった。

彼女たちはこの時になって始めて大変な相手を敵に回した事に気が付いた。

そう、まるで雨蛙が大蛇に噛み付いたようだ。勝てる相手ではなかった。


彼女等は一目散に逃げ出していった。




NEXT