#10 呼び出し
「さて、私はなぜこんな所に連れて来られてのでしょう」
場所はオーソドックスな校舎裏。
まあ連れて来られた理由なんて簡単に想像付くけどね。
あんなに見つめられてたら、そりゃ分かるさ。
「単刀直入に言います。私たちは貴女が気に食わないです」
本当に単刀直入だね。リーダーと思われる髪の長い娘の度胸に拍手。
「君達は牛尾先輩ファン?犬君ファン?それとも石坂部長?」
牛尾様をお慕いする集いと犬飼君を地球の底まで追っかけ隊と
石坂君を見守る会だっけ?3人共大変だね。
「野球部の皆様を見守って貴女が嫌でたまらない者達の合同隊です」
てことは2人のファンだけじゃないんだね。
「言っとくけど私、今まで男と付き合った覚え一回たりともないよ」
「知っています。でも私たちはあの方々に想われているあなたが嫌いです」
痛い。
「そうよ!!なんであんたなんかなの?」
「犬飼君にあんたなんか似合わないのよ!!」「牛尾様もですわ!!」
「司馬君もよ!」「猪里君も!!」「何で比乃君をウサギ君なんて呼んでんのよ!」
「蛇神様が穢れるわ!!」
「何で女子が野球をしてるのよ!!」
痛い!!心が軋む。知らない人でも嫌いといわれるのは嫌だ!!
もう…ココに居たくない。
しかし、は心で考えている事とは裏腹に無表情だった。
体力も回復して来た…行くか。
「そんなの本人に聞いてくれ。大体皆は友達。先輩達は先輩後輩。
特別な関係があるとすればこれから甲子園を目指す仲間だ。私は行く。
あなた達も急がないとチャイムが鳴るぞ!!」
ダン!!
捨て台詞を吐き、私の十八番、助走要らずのジャンプで
寄り掛かっていた木の枝に掴まる。
鉄棒の要領で回って枝に立ち、開いていた2階の窓から中に入る。
この事に関しては泣かない。
もう私はあんなに泣いたから。
*
ダダダダダ!!
廊下を走る音がそこかしこで聞こえてくるが皆来た方向は同じ、
しかし1つの走る音は違う方向から来た。
キーーン コーーン カーーン
ガラッ「間に合った?!」 コーーン。
最後のチャイムの音が消えていく
「ギリギリセーフだ。珍しいというかこんなに遅かったのは始めてだな」
「ちょっと体育館裏で呼び出し食らって、逃げてきました♪」
親指を立て、ニッコリと先生に遅れた理由を告げる。元の私を作って。
「「「「「「「「「「「「ええええええぇぇ
ぇぇぇ!!」」」」」」」」」」」」」」」」」
1−Eの生徒の心が1つになった。
当然といえば当然だが、SHR中に大声を出しちゃいかんだろう。
本人はどれだけ傷ついているのだろうか。
生徒一同は心配してに視線を向けるが。
「おお。ついに始まったか。気を付けろよ」
「心得てますって」
先生と爆弾発言をした当人は軽く流す。皆に傷を見せないように振舞う。
心配させたくない。先生にはこの事に関して口出ししないようにすでに言ってある。
先生が関わるのは最終手段の時のみで十分だ。
「物にも被害あるかも知れないので皆も私の持ち物に触っちゃいけないよー」
「何言ってるんすか?!問題が違うっす!!」
「子津君いいツッコミだ。でもそろそろ授業が始まるから静かにね」
「うっ」
確かにその通りなので言葉に詰まる。
「後は……あったあった。子津君、いらない紙はある?」
「あるっすけど…」
「それ頂戴」
子津は自分の机からプリントを1枚取り出し、
に渡す。
「アリガト、こうやって包まないと他の人が怪我するからね」
は机を覗きながら何をしているかと思えば
カッターの刃を机から取り除いていた。
「ちゃん?!」
「大丈夫、机の中はこの2枚だけね。教科書とか入れておかなくて正解だったわ」
次はロッカーを調べる。
鍵が閉まっていたから大丈夫かと思っていたのだが、
荒らされていて体育館履きと美術のスケッチブックは買い直しのようだ。
「うーん。憎しみが凄いね。ココまで恨まれると悲しい通り越して呆れる」
「ってか、なんでそんな落ち着いているんだよ??!」
クラスの1男子生徒が聞いてきた。
そいつはこういうのをみた事が無いらしい。
「だって、1回2回じゃないものこんな事は。
どっちっていうとココまで遅かった事に吃驚よ」
嘘。本当はぐるぐる黒く冷たい感情が心に溜まっていく。
「さて、凪、子津君、今日のお昼野球部主要メンバーとマネ集められる?」
「多分1年は大丈夫っす」「こっちは全員大丈夫です」
「マネは全員?もしかしてこれ今まで止めてたのって…」
「はい」
凪は弱々しく肯定した。もう感情を押さえ切れそうに無い凪を私は抱きしめた。
「有難う。私は良い仲間を持てたね」
「ちゃん…っ」
凪の目から涙が零れ出す。
「あー泣かない泣かない。後でお猿君とか皆に怒られるよ」
「、うちらもやる事合ったら言ってよ!!」
「そうだよ。ちょっとかっこいい人と仲が良いだけでこれは酷いよ!!」
クラスの友達も協力を申し出てくれた。
「有難う」
私は感謝の言葉を述べる。
「当たり前!!」「が良い奴なのは知ってるしね」
「さん男狙って部活してる訳じゃないじゃん」
「そりゃ、嫉妬するファンの気持ちも分かるけどこれはちょっと……」
「うん。酷いよね」「無理すんなよ」
皆が口々に心配し、慰めてくれる。
「うーん子津君、虐められてココまで皆色々言ってくれて
滅茶苦茶嬉しい私ってちょいヤバイ?」
「皆、さんが好きだから当たり前っす」
「私は幸せ者だね」
……先程までの痛い場所が凄い速さで癒されていく。
体の傷でもこうはいかないだろう。
私は何も皆にしていないのに皆が慰めてくれる。癒してくれる。
「さんは皆が嫌がることも平気でやってくれてるっす。
この前の真面目で他人ばかり心配して自分の怪我をほっとくのはさんの方が合ってる気がするっす」
「じゃあ私達が似たもの同士なんだね」
「そうかもしれないっす」
私の心は寂しく冷たい疲れた気持ちから暖かい嬉しい気持ちに塗り替えられる。
その間、先生は青春ドラマのような光景に出会えた事に感涙していた。
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