ドリーム小説
22


「ぶっちゃけ、近いんだろうな」

赤本を机の上に開いて、シャーペンを握るが、甲子園の
中継放送に神経を傾ける新井は、独り言とも、他人に
疑問を投げかけているようにも思える台詞を言った。

「誰と誰が?」

下重は漢文と格闘するのに疲れたのか、その台詞に乗った。

文芸部3年組の石坂、新井、下重は夏休みになってから、
夏期講習の帰り道に石坂の家に寄り、受験勉強の続きを
するのが日課となりつつある。

かなり真面目に受験生をしてるが、目下の関心は模試や
大学のオープンキャンパスではなく、一気にお茶の間の
有名人になった部活の後輩、のいる女子選抜の
試合にいってしまう。

埼玉選抜だってちゃんと応援しているが、やはり、近しい
に比重は傾く。
実際、後輩'sは本日から部活の合宿を兼ねて、甲子園球場
まで行っている。

もしこの試合に勝ったら、大阪との準決勝。
そのとき自分達も応援に行こうと話し合っている。
悪いが、この大会の前に優勝しているチームの2本柱を
折って決勝に行ける可能性はかなり低い。
それが3人の共通の認識だ。

だが、神奈川選抜とならまた話は別。
6回にて満塁ホームランて4点差をつけたから、よっぽど
のことがないかぎり、勝ってくれるはずだ。
下重は心の中で一時でも受験から逃れられる機会にガッツ
ポーズをしている。

「と猿野だよ」
「は?どこが?」

下重は新井に侮蔑じみた視線を投げかけた。

「試合見ててなんとなく。
十二支は牛尾と蛇神がいない時あったからってのもあった
んだろうけど、一番目立ったの猿野だろ?
はマスコミのお膳立てもあったけど、同じかそれ以上に
チームで目立ってる。
こういうと変だけど、2人は感情を揺さぶる才能を持ってる
と俺は思うよ」
「そんなものかしら?」
「そんなもんだよ。先天性のものは、やっぱり強いよ」
「そうね…」

下重は静かに新井の説明を肯定した。

自分達はもう、努力だけでなんとかなるとかの、幼い説得
が通じる年ではなくなっている。
努力は勿論必要だ。
というか、努力がないで大成する人なんて皆無に等しい。
努力して、魂と時間も磨耗して、その中で天性のものを
光らせた人間が、天才、偉人と呼ぶに相応しい。
すでに天才と人々に囁かれる後輩を見ていて、そのこと
を身近で実感した。

7回裏からマウンドで投げ始めたは、5番打者から
先の6番、7番打者も魯捺羅(ルドラ)で揺らし、3回
空振りさせる。
7回裏は三者三振と余裕を残し、8回表へと移る。

その間に石坂は麦茶を注ぐごうと立ち上がった。

「あの雰囲気に喰われないなら、後は実力と根性の問題
だからな」
「拗ねてる?それとも妬いてる?」

下重はにんまり笑ってお菓子をかじった。

「……その顔は意地がわりぃよ」

石坂は苦笑して座布団に座りなおした。

「昔負けた投手と、今大事にしてる選手の試合で何も思わ
ないわけないでしょ。
だったら傷口グリグリしてやるのが友情よ」
「それは単なるイジメだろ」
ぱしんっ

嘘のない目で外道な事を言う下重を新井は頭を丸めた
問題集で軽く叩いた。

「悔しいさ」

はっきりと、石坂は言った。

いつのまにか、テレビの中での試合は8回が終っていた。

バックスクリーンの女子選抜のスコアには1点が追加され、
8回裏も余裕の残る投球と守備で守りきる。

残り1回を残し、6-1で女子選抜優勢。



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