23 麦茶を飲んでから、石坂は話始める。 「自分でバカして肩ぶっこわして、うだうだしてたら3年 も経ってて…自分より格下と思ってた奴等が、俺が立ちた かった場所に立ってる。 悔しくて、羨ましくて、素直で純粋な応援なんて、 できっこない」 泣きそうに顔を歪め、力の入った眉は、いつもより若干 つりあがっているように見える。 「俺もになりたかった。 みたいな幸運が欲しかった」 グラウンドで唯一前にいてくれる、頼れる捕手も。 自分が支える価値があって、自分を支えてくれる野手も。 本当に大変なことになる前にストップをかけ、へっぴり腰 になったときには拍車をかけてくれる監督も。 あいつが、自分の努力で勝ち取った技術以外、全部が欲し かった。 『8回表では4番さん、5番加西さん、6番松林さん のトリプルヒットで追い討ちの1点が追加されました。 今大会で最も注目を集めた女子選抜の皆さんですが、期待 以上の試合でベスト8まで上り詰めましたが、これは彼女 達の実力と断定してもいいのでしょうか?』 『相手のチームも女性との試合で困惑している面も確実に あるでしょうが、やはり選手全員の土台のある実力が あってこその結果でしょう』 途中で、コメンテーターの雑談が入る。 選手全員のレベルが高いのは事実だ。 そして、はその中でも頭1つ分の抜きん出た力 を持っている。 俺は6月に3球だけ、あいつに本気で球を投げた。 今の俺ができる全力投球だった。 バッターボックスに入ると、の顔つきと雰囲気が 一転した。 あれほど荒れていた感情を抑えきり、投手である俺しか、 見ていなかった。 あの時、俺はというプレイヤーを実感した。 「負けたんだ。選手としては完膚なきまでに。 女に投げる戸惑いと同情が全部かき消されて、ただの投手 と打者になって、本当に負けた」 あの敗北感があったからこそ、ゼノン=レオハルトと李燕 の言っていたことに、俺は共感した。 「は野球部の世話やき役で終っていい奴じゃない。 その事実は一握りしか知らなくて、その一握りであること に優越感を持ってたよ。 宝箱に眠る宝石のありかを知っていることに満足して、 本人が望むまではあのままでいたかった」 「本当の輝きを見せないかわりに汚れもしないってこと? で、本人が宝箱から出ることを望んで、優越感と一緒 に過去の自分の栄光を盗られた気になって悔しくハンカチ 噛んでるのが現状ってわけ」 「ハンカチは噛んでない」 「単なる比喩よ」 「でもよ、大会に出てるのは牛尾や猿野、犬飼、兎丸だっ て同じだろ?悔しいの対象はだけなのか?」 「あー、だけだな。牛尾達は"んじゃ頑張って来い" で終るくらいなもん」 「それはそれで酷い」 「いや、本音言うと何でこんなににライバル心燃やし てるのか、自分でも分かねーんだよ。 こう…追い越されるのが悔しい反面、もうちょい守ってや りたかった悔しさもあるんだよな」 宝石は外で輝くことを望んだ。 だったら、思いっきり輝いてほしかった。 俺みたいに惨めに潰れてほしくなかった。 野球を思いっきりできない悔しさも、仲のいいチームなのに、 何処となく疎外感を感じてしまうもどかしさも、 何も知らないバカが寄越してくる邪魔な感情も、 俺は、それを知っていたから、 あのプレイヤーを守りたかった。 「恋愛感情とかで、片付けてほしくないんだ」 テレビの中からアウトとチェンジの掛け声が聞こえた。 NEXT