ドリーム小説

19




守備配置が終って、6回表が始まる。
まず最初に打席に入ったのは1番の恵子。
軽い当りのサードゴロで一塁到達に成功。
続いて2番のせあらがピッチャーへ当てるかのような低い
打球コースを作り、1,2塁が埋まった。

「あの厚木って人、中学時代に石坂部長に勝った投手なんだ。
今、投手してる埼玉球児の頂点に立った有望中学生投手だった。
んで、折角の全国大会なのに一回戦で負けて悔しくて練習量
増やしたら故障して、野球できなくなって……」
「詳しいんだ」

小野関の邂逅に、唐澤が口を挟んだ。

「俺と伊藤は石坂先輩と同じ中学だったからな。つっても、
お互い顔合わせたのは高校入ってからし、噂しか知らない」

一旦、会話が止まった。

3番の由乃が見事に守備の壁に穴を見つけ、そこに球を通した。
1,2,3番の満塁。
ここで登場するのは、カワセミの羽のように鮮やかな緑色
の目をした、4番を背負った打者が、整えられ舞台、
バッターボックスに入った。

唐澤は、と関わるまで野球の中継すら縁がなかった。
周りに やる人もいなかったし、本人も走るや飛ぶといった
陸上競技の方が性にあっていたためでもある。
だから、こういう対人スポーツでの駆け引きを今初めて
しっかり見た。

感想は、"思い知った"だった。 

「私は部長みたいに読者の感情を引きずる文章が書けない
のは、そういう、数値の世界じゃない勝ち負けの経験が
ないからだと思う。

みたいに熱意をぶつける文章を書けないのは、必死に
なってまで追い求めるものがないからだと思う。

喚いて、理不尽に泣いて、どうしようもない壁の前で膝に
土つけて、それでも諦めないような、そんな情けないこと
をしたことがない」

「プレイ!」

主審の合図の後、一拍置いて、
座間が振りかぶって、投げた。

の膝ぎりぎりの打ち難いストレート。

「立ち上がれ、竜王(ナーガ)」

キイィィイン

金属音は遠く、高く、飛距離を伸ばしていく。

バットの音色と共に塁にいる三人は走り出し、も
バットとヘルメットを捨て、一塁へと駆け出した。

「情けないことする勇気がないんだ。
かっこつけたいんだ。
私の文は、クールぶって、大人ぶって、対立とか衝撃とか
から逃げてたんじゃないかって、今、ちょっと反省してる」

『1番小沢さん生還!続いて2番刀祢さんが本塁に戻って
きたー!』

恵子はベースを踏み、それから空に浮かぶ白球を捜した。

人差し指を立て、振った。

「3,2,1」

ポーン

フェンスの外にある芝生に、球は転がり、数度跳ねてから
眠ったように静かになった。

『満塁ホームラン!!!』

「がバカしても情けなくても、感性の部分で人を揺さ
ぶれるのは人並み以上に壁にぶつかる経験をしてるから
なんだね」
「……オレは唐澤の書く物、好きだ。
クールぶってるのと、冷静に自分の視点で物を見つめら
れるのは似ててもまったく違うだろ」
「……ごめん、慰めてくれてんのはわかるんだけど、
そんな真っ赤な顔して言われると笑いがこみ上げてくる」
「うっせえ!!」

5-1	女子選抜有利。



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