ドリーム小説


18


「冷静なチームだ。勝負する場所を心得ている」
「監督、敵さん褒めてる場合ちゃいます。
同点にされたやないですか」
由乃が監督にビシッと合いの手代わりのツッコミを入れる。

現在は4回の裏。

6番打者の座間が1塁、5番打者の綾瀬が2塁で、つい先
ほど4番打者の五領が本塁を踏んで1点を入れた。

4回表では3番由乃がゴロを取られてアウト。

4番のは4ボールで歩かされ、5番のと6番の恵を
綺麗に討ち取って追加点を許さなかった。

これで1−1の同点。

「たった1巡でこちらの理想の流れを読み、その反対を
探し当てたんだ。流石、大阪に次ぐ優勝候補だな」

霞はしかし、と言って鋭い目線を弟子に向けた。

「3投目、打てない球ではなかったようにみえたぞ」

はバットを置いてその圧力を受け止めた。

「、次は振れるな?」

師匠は誰よりも強く、そして優しく、甘くない。
大事な相手に厳しく出来る人だ。

「はい!」
「手加減は最初からしていないだろうが、打ち崩せ。
それがお前の役目だ」

私を最大に伸ばしてくれるのはこの人だ。

優しさの真綿で包むのでなく、鍛錬で動けなくなるほど
疲れさせて、その後に冷えた水をくれる人。

だから、私は瀧野霞をただ一人の師と決めた。
はグローブに強く拳を打ちつけた。

「はい!!」




『現在5回裏。双方1-1で均衡した戦いが繰り広げられ
ています!』

アナウンサーの声は熱が下がらない。
観客も8月下旬の暑さにも負けずにグラウンドに釘付けだ。


「あっつ〜よくこんな中であんなに動けるなあ」
「そんな長袖じゃ暑くて当たり前だろ。
紫外線が対策は日焼け止めで十分だ」
「何言ってるのよ伊藤!肌のダメージは蓄積されるのよ!
高齢になってから皺とシミになかされないように今から
対策しないでどうするの!
女のUV対策は男のハゲ対策と同じく位大切なの!」
「俺のじーちゃんと親父はフサフサだから大丈夫」

長袖を羽織り、日傘を差した外所と薄い赤のポロシャツが
涼しげな伊藤が騒いでる場所よりも少し離れた場所で、
小野関と唐澤がガリガリ君(コーラ味)を齧っていた。

「応援してるのは女子選抜なんだから勝つって思うのも
女子選抜でしょうが」
「そりゃそうなんだけどさ、これベスト4争いなんだぜ?
しかも強豪神奈川との対戦なんて、数年前どころか1ヶ月前
だって夢にも思わなかったぞ、俺は」
アイスの棒をコンビニ袋の中に入れ、小野関は見上げた太陽
の眩しさに目を細めた。

『ピッチャー紀野さんとキャッチャー加西さん冷静に三者
を打ち取ったぁ!』 

「今こうやって生で試合見て、本気で凄いと思うぜ。
神奈川選抜の選手全員が女って思って手を抜けてない。
抜いてないんじゃない、抜けないんだ」


「都筑、どうだった?」
「回転強すぎて無理だよ。
バットにくる重みと回転で思った場所に打てないね。
強いっていうより巧みって言葉が似合うピッチャーだ」

都筑はヘルメットと手袋を外して、大きく息を吐いた。

「体感160km/hは主戦力を抑えるためで、下位打線は
遠くに打たせず、守備を生かしてるから中々点貰え
ないな」

「群馬は黒蝶に注目しすぎて大敗し、山形は守備である
程度失点を抑えたものの、攻撃では初出場の紀野投手の
対策を立てられずに敗退し、残りのチームも似たような
理由で黒星になってしまった。
まったく、こちらの常識をことごとく覆す技術と持久力
を見せてくれるな。
それに、あの瀧野霞が監督とは、どんな説得をしたのかな」

補欠の一人が川崎満監督の呟きに合いの手を返す。

「監督、あっちの監督と知り合いなんですか?」
「まさか。俺が勝手に知ってるだけだよ。
瀧野監督の本職は医者で、今まで何人もの再起不能と言
われたスポーツ選手を復活させた名医なんだ。
リハビリ、スポーツトレーナー、医学、武道家のいづれ
かに足を突っ込めば何度となく聞くことになる人だよ。
男でもキツイこんな炎天下の中試合させるのだから、
女子選抜の監督が医師であり、野球専門でなくとも、
スポーツのトレーナー知識と実績がある人である事は
最高にいい選択だ。
外堀も内堀もよくあの短期間で埋められたもんだよな」

「んな感心してないでどうすれば勝てるか教えて下さいよ」

「どうすれば勝てるという確信できる方法はない。
紀野投手ははっきり言って面白みは少ないが、攻略すると
なるととっかかりを見つけにくいタイプだ。
まずはでかいのを狙うより、小さな攻撃で疲れさせろ。
投手交代したところが神奈川の力の見せ所だ」


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