16 攻撃が神奈川に移る。 「僕、紀野って人のピッチング見たこと無いんだけど、 どんな感じなのかなー?」 くるっと回って、兎丸は部屋にいる人たちに聞いた。 紅印がポーチにチークをしまってから、兎丸の質問に答える。 「紀野さんは、投球自体は単純なのよ。 速度はアンダーで124km/h出しちゃうくらい速いわ」 影州は鏡を見ながらピン止めを直し、紅印の台詞に続いた。 「アンダーでの体感速度は+30km/hっつーから 155km/hだぜ? でも持ち球は少ないんだよな。俺知ってるだけだとカーブ、 スライダー、シンカーくらいだっけか」 「ビデオでしか見てないから確かな事は言えないけど、 桐原さんやちゃんの方が格上ってイメージはあるわね。 アンダーは高校になってから変化球覚えるのが一番って いうから、じっくり肩を作ってるんじゃないかしら」 最も、速さと変化球だけで勝負しなくても勝てる人 だからこその選択なんでしょうけど。 「プレイ!」 審判合図と一緒には捕球体勢をとる。 燐が投げた。 スワローよりは少し高めのアンダーはピッチングマシン よりも幾段も速い。 パアァンッ 「ストライクッ」 120そこそこかな。次、外してから一塁進ませるか。 ここの4番はケッコーな打者って監督言ってたもん。 へサインを出し、投げる。 打者の膝より下に投げ、後ろのスクリーンのボール ランプをひとつ光らせる。 110で、ゴロ打たせる。 握りを変え、力を抑え目に球を飛ばす。 キインッ 「ショート!」 バウンドしてすぐを瞳は捌き、ショートに投げる。 「恵子さん!!」 パアンッ 「セーフ!」 神奈川サイドから盛大に音があふれた。 各高校の合同吹奏楽がファンファーレを奏でて、 応援の声もそれに負けじと大きくなる。 「燐なら2番を三振、3番にフライさせて1番を二塁に 進ませる。で、4番の初っ端を挫くってところかな」 4番五領さんの長打力はお猿君と匹敵する。 熱くなっても周りを見失わない器もある。 だから、一番最初の足踏みを崩させる必要がある。 それが昨日の話し合いの結果だ。 一人でもランナーが出てて、三振は1つ。 もう1つは惜しい球で、打てないものでないと思わせる。 ……ちょっとくらい、守備で活躍したいんだけど、無理かな? 1年半寝て、ここ4ヶ月使いまくってるパートナーグローブ 吉祥天を撫でた。 お前も踊りたいよね? 「バッターアウトッ!」 2番は予想通りに三振。 3番は現在ツーストライク、ワンボール。 キイィイィン 「レフト!!」 フライというより若干ライナー気味の球が一度バウンドし、 忍の立ち位置の左方向に飛んでくる。 忍は2歩で球に飛びついて、2塁へ送球。 スパンッ 「セーフ!」 ランナーは一、二塁。 良い調子の出だしに神奈川選抜に若干の余裕の流れが 出てきた。 いい感じに雰囲気作らされてるよね。燐に。 「燐、本気でいいぜ」 は体勢を代えて、次の球に備えた。 五領相手に現在ツーアウトスリーボール。 もう1回の球が全部を担っている。 ぐっと、肩を回し、投げた。パアアァン
「Clear away……」 「アウトッ!チェンジ!!」 「おい今何キロ出た!?」 「130km/h!!自己記録6km/hも更新してやがる!!」 「アンダー最速…これ打つには大阪の雉子村の160km/h 並にキツイのか!!」 観客席も動揺を隠せずに騒ぎ立てる。 ただ呆然としている神奈川選抜をあざ笑うように 燐は口元を持ち上げた。 「ザマーミロ」 「こんな所で一等の球持ってくる必要あったん?」 松林のつぶやきにが口を入れた。 「強い奴は一発目が重要。弱い奴には徐々に恐怖を与える のが肝心。 精神が付いてこない技はどうしてもMAXとは見劣り するからね。 燐のプラン構成は信頼できるよ」 紀野燐は速球以外は普通。それでもトップレベルを維持 出来るのは一重に試合のプロデュース能力の高さにつきる。 ただし………。 「目に見えない分、地味なのよね」 地味に重要な部分が得意なだけあって、Clear away(取り除く) 以外の派手な見せ所が無い。 それを本人がコンプレックスを感じてることはよく知ってる。 私の持ち技が派手なので何度も何度も嫌味も愚痴も聞か されているから。 「―さっさとベンチ戻ってきてよ。 2回表始まるよ」 恵子にせかされ、私はベンチへと小走りにかけていった。 NEXT