1 「ちょい外気味だったな」 燐は軽く舌打ちしてグローブを叩き、 はそれを見てククッと喉を鳴らして笑った。 「相手がバット振って私のミットの中入りゃ それでヘーキっしょ」 「アウト!試合終了〜!!」 『女子選抜VS山形選抜、3−0で女子選抜が制しました! 初戦と同じく快調に0行進! 山形選抜も巧みな連係プレーで奮闘してくれました!!』 アナウンス嬢の興奮した声はスピーカーによってさらに 拡張される。 「完敗だっただな」 「何言ってんだ。ホームランボールキャッチ はこっちもビックリしたぜ」 山形選抜主将の蔵王と女子選抜主将の比嘉は がっしりと握手を交わした。 男女を越えたスポーツで生まれる友情ここにあり。 『本日の試合は終了です。 明日は1試合目、青森選抜VS新潟選抜が10時半より 試合開始、2試合目、埼玉選抜VS徳島選抜が 14時から開始、3試合目…』 「明日は小沢はんとはんが途中抜けやわ」 由乃は汗をタオルでふき取りながら言った。 「レギュラー二人も抜けるん。今日の交代順番の 見直ししたかったわ」 「そうだな、琴美と紀野の交代をどこでやるかが難題だ」 松林と忍がお互いに賛成だと顔を見合わせた。 「圧倒的に投手が少ないのよ!、アンタ セットアッパーしなさい」 「でもそうすると外野が辛いじゃない。 長打が多い時、さんを投手に回すのは怖いよ」 「女子野球の強豪、大部分が遠征合宿でしょう? この大会の為に残ったの切原さんくらいよね?」 「ソフトの日本選抜にいい投手持っていかれてるのも痛い のよね。だからこの選抜3年が少ないのよ」 補欠の選手が口々に状況の悪さを愚痴る。 元々、無理やり突っ込んだ日程で、女子の出場が許される など誰も予想しなかったから、選手は万全と呼べはしない。 「今更愚痴愚痴言うな!野球は9人でやるもんだ。 18人もいれば十分!!野球は投手と打者でやるもの じゃない。後ろの守備も使って初めて野球だ」 そこに、比嘉の一喝が入った。 それにすかさずも推し進める。 「私も比嘉さんに賛成。私はできるだけ守備にいたい。 幸い、準々決勝までは数日の空きがあるから2人も休める し、私はその時その時に臨機応変に使われればいいと思ってる」 「それに、アレはできるだけ大阪の切り札 に残しておきたいからね」 は神妙な顔をしている。 アレを指す何かを、この選抜全員は知っている。 「確かに、アレは隠しておきたいね」 恵子は片付け終わったカバンをしょったまま、本音を言う。 「と言うか、燐の力量疑われてる気がしてこの話題 嫌なんだけど。決勝まで燐か切原さんが投げれば いいだけの事なのに」 「あのね、別に紀野さんの投手としての力量は悪くないの。 ただ、相手が怪物すぎるだけよ」 恵子がそう言うと、燐は鼻で笑った。 「怪物?それならここにもいるじゃない」 燐はすっとを指差した。 なんてことはない動作なのに、自信に満ちていた。 「黒蝶が怪物じゃなくて誰が怪物よ。 野球界全体を動かすし、この程度の力量かと言われない どころか"ホントに女か、女にしとくには勿体無い" なんて中学と今だけ側にいた燐でも耳タコなのよ。 雉子村黄泉なんかよりずっと始末に悪くない? そう、燐が追っかけてる相手なら怪物って 言われるくらいじゃないと困るのよね。 それくらいの覚悟はあるよね、」 「勿論…モス●にはなれないけど怪物の名前 なんて黒蝶の名前と同じく背負ってみせるわ」 「そりゃモス●にはなれないっしょ。 モス●は蝶じゃなくて蛾だからね、蛾」 部長に騙された!? その時、埼玉にある自宅で受験勉強に打ち込んでいる 石坂がくしゃみをしたかどうかは定かではない。 NEXT