ドリーム小説


30


十分も走らない場所で、自動販売機の隣にうずくまる
御柳を見つけた。

「ミヤ君?……ミヤ君」

呼びかけても、御柳は反応を返さない。

「ま…って…お…神さ…」
「ミヤ君、御柳芭唐!!」

はすぐに御柳の前に屈みこんで御柳の体を揺すった。
すると、反射するようにガバッと御柳が目を覚ます。
目元は赤く腫れ、顔は疲れきって、気の抜けた声を出す。

「……」

目の前の人の名を呼び、その肩に額を押し付けた。

「ミヤ君、昨日からずっとここにいたの?」

は憔悴しきった御柳を押し返さず、小さな子供を
なだめる様に背中を擦った。
呼吸が乱れて、声を上手く出せないが、
無理に喉に空気を押し込めた。

「何で、何でだよ。
何で大神さんは、俺なんか助けたんだよの木綿のTシャツに、一筋の涙が染みる。

「あの人は絶対凄い未来が待ってたのに! お前が好きになるくらい、いい男だったのに! 何であの時笑ってたんだよ!!」

御柳はの腕の裾を掴んで絶叫した。

「俺は、大神さんを殺した俺は、もうあいつ等 とは一緒にいられないと思ったんだ!! 屑の人間にまみれて、それでいつか死んじまえ ばいいって思ってたのに、犬飼の奴だって」

『こんな事なら大神さんじゃなくて …アイツが死んじまえばよかったんだ』 亀裂が、見えた。

「俺がいなけりゃ、誰も泣かなかった!! 俺がいなけりゃ大神さんは生きて凄い、 世界中の人に知られる選手になってたのに!! 俺が全部ぶっ壊しちまったんだ!!」

苦悩と自責と無念の鎖と糸。 十二支の皆と会う前の私と同じ、後悔に雁字搦めにされた人。 私が悩んだ1年半は無駄な時ではなかった。 忘却と絶望の先、死が甘美に思えた瞬間すらあった。 でも、それすらも無駄にならなかった。 だって、今の御柳芭唐に返答できるのは 私しかいないんだから。 は目をふせ、静かに深呼吸して、一拍の間を置く。 女性でない口調は障害もなく他人の心を突き刺す。 冗談だと思わせない、本音であることを分からせる、 誰にも教えられていないのに身についた癖。 「酷いことを言うから、先に謝る。 御柳芭唐、君は間違いなく多くの人の人生に 影を落としてしまった。 あの事故で、沢山の人が泣いた。 大神さんを失って、辛く思った人がいた。 あの日の出来事で、人生が変わった人がいた」 どんなに辛くても、その事実は変わる事はない。 「私達だけでない、大神家の家族、当時の十二支の生徒、 あの時の事故の運転手も……君は彼らに謝罪のひとつ もしていないだろ? 大神さんにも、墓前で謝った? 大神さんに、"助けてくれてありがとう"と言えたか?」 悟らせる為にでなく、としての私情を垂れ流しにする為に。 は、顔を上げない御柳の胸倉を掴み上げ、 自分と正面から向きあわさせた。

「大神さんが笑ったのは、お前を助けられた って思ったから笑ったんじゃないのか!? 死ねば良かった!? ふざけてもそんな事言うんじゃない!! 助けられたお前が大神さんに感謝しなくちゃ、 大神さんがした事の意味がなくなる!!」

荒く息を吐き、肩を震わせて、はもう一度声を震わせた。 抑えろ、いつもの私で次を答えろ。 「自称、大神さんのライバルの私が保証する。 大神さんは死んだ事悔やんでもミヤ君を恨むことはしてない。 私は赦せない気持ちが残ってるけど、やる事したら 赦せるだけの時間と感情の変化ができてる。 ミヤ君も5年間、出来なかったことでも、 今ならできるんじゃない? 5年前に戻ることはできないけど、 5年前より先に進むことはできるんだよ」 5年前、私にとって大事なのは大神さんであって3人の 弟子はどうでもよかった。 5年後、3人の弟子と大神さんと関係なく出会い、 3人ともが大事な友人になった。 「お願いだから、いなくならないで」 もし、ミヤ君と犬君と辰君と私が全員で笑えれば、 大神さんもあの眩しい笑顔で笑ってくれる。 涙目になっていた目元に、自分より大きくて硬い手が 触れ、水滴をふき取った。 「俺さ、大神さん家にはもう謝ってんだ。 あいつ等に顔合わせたくなくて、葬式からちょっと後に」 大神さんの両親は疲れ果てた顔をしてた。 俺を罵倒せず、怒りも憎しみも向けないで、 ただ、息子を失った悲しみに埋もれてた。 最後に、大神さんの親父に紙袋を手渡された。 「黒い大学ノートを渡されて、"これ見て野球続けて 欲しい"って言われて、その為だけに野球してた。 自分からやろうって気がずっと起きなかったけど、 今年はちょっと変わってきて…そんくらいの変化でも 平気なのか?」 「上等だよ」 ねえ、大神さん。 貴方が言っていたBIGの意味は、 出来る事を増やしていくことだったよね? NEXT