28 夜の道を歩く3人は誰一人一言もしゃべらない。 猿野と由太郎はに遠慮している。 は先ほどのたった数十分の複雑な感情の交差を鬱々 と考え込んでいる。 話の大元である大神照という人物をまったく知らない 猿野は当たり前のこと、今の今まで存在を忘れていた 由太郎も出しゃばれない。 「あーごめんねユタ、お猿君」 ホテルにもう少しで着くという時になって、やっと謝罪した。 「事情知らない2人には意味不明だったでしょ」 「どうして何も言わなかったんだよ」 由太郎の声は冷ややかだ。 あーあ、やっぱり怒ってる。ちょっと仲間ハズレな状況 だったし、しょうがないか。 こういう時は全部さらけ出すしかない。 「心配かけたくなかったのよ」 今も昔も魁兄とユタは私に対して過保護だと思う。 友達と遊びたいはずなのに私の為に一緒にいてくれて、 野球も、男の子と一緒にやれるようにしてくれた。 二人がリトルチームに入る時、私も誘われたけど 師匠の稽古があると言って入らなかった。 その時、二人は何も悪い事していないのに、申し訳 なさそうな顔をしていたのを今でも覚えている。 どこまでも私を大事にしてくれる義兄二人が大好き だったから、二人の時間を奪う自分が悪者に思えた。 ある意味軽い鬱状態だったね、あの時は。 そんな暗い思考回路も大神さんと雪さんという ビックインパクトで吹っ切れた。 あの二人の側にいれば愚痴愚痴と悩む自分の小ささ に否応なく気づかされる。 魁兄とユタの時間を奪うのが嫌なら私が自分の時間を 作ればいいだけの話だとすっと浮かんできた。 そしたらもう今の性格形成完了だ。 「ユタは私に頼れ頼れって言うけど、私は自分でできる 事まで人に頼むほど面倒臭がりでも馬鹿でもないわ。 だから、最後の最後に頼るのは、本気で信頼してる人だけ。 そのカテゴリーに家族と師匠ともう二人増えてただけよ。 だから、大神さんが死んだ時、安心して泣けたの」 大神さんのお葬式から帰って、すぐに出迎えてくれた。 ユタに延々2時間はしがみ付いて泣いた。 涙枯らして、嗚咽しか出なくなった頃に魁兄が帰ってきて 今度は魁兄の膝で寝た。 「あの時、無理に理由を聞かないでくれて助かった。 あれ以上考え込んでたら壊れてたかもしれない」 何がとは言わない。 関係・人格・過去・未来……私に関わる色んなもの にかかってくる。 「これで、私が凪とお猿君の関係に何も言わないの 分かったでしょ?」 「……辛いな」 猿野は一言、言い放った。 もし、俺が今凪さんを失ったら、絶対立ち直れねえ。 今俺がここにいるのも元を辿れば凪さんだし、 一番頑張ろうって気になるのも凪さんがいるからだ。 その凪さん、でいう大神さんがいなくなったら? ……考えただけで、怖ええ。 きっとあの馬鹿親父と兄貴がいなくなった時より ショックはでかい。 手に嫌な汗が伝ってきて、強引にズボンに擦り付ける。 「……その辛さは私一人じゃないのよ」 犬君も辰君も雪さんも当時の十二支の人たちも 私じゃなくても、大神さんを好きだった人は全員。 その中に紛れ込みそこなっている御柳君は 悲しみを出し切れたのだろうか? 「……ミヤ君、今日帰ってくるかな?」 +* 「お帰り」 「ただいま」 は階段に座っていたの隣に腰を落ち着けた。 そして、背伸びしながら大きく息を吐く。 どことなく重そうな息だった。 「疲れてるねえ。は全部抱え込もうとするから 疲れるんだよ。ちょっとくらい忘れても他がサポート したりどうとでも時間は流れるよ」 「忘れるのが怖いわ。大切なものは簡単に零れ落ちるから、 気を抜くのも怖い。今までの行動力の一番の機動源は恐怖と 言っても過言じゃないの。 それに、返ってきてくれたのは、アナタだけよ」 「そりゃ光栄なことで」 やべ顔にやける。 アタシが始めて自分から一緒にいたいと思った子が、 アタシを好きでいてくれるのがすごく嬉しい。 部活の練習も規則も上下関係も面倒だ、つまらないと数え 切れないほど思ったけど、満足してた。 空虚な一日は一回もない時間があれから始まった。 「はさ、ミヤ君よく知ってるよね? から見て、ミヤ君が誰かに頼んで人を怪我 させようとする人?」 「あり得ない」 は断言した。 「奴はムカついたら自分から突っ込んでいく。 他の奴に頼むなんてあいつの矜持が許さない」 なら、私の勘は当たってる。 「寝よっか」 はの腕をつかんで立たせる。 は首を小さく振って、の後についていった。 渦巻く思いに、身が焦がされたくないから、 寝て考えることを放棄したかった。 NEXT