27 白雪はの話が終ったと気づくとパイポを咥え、 脱いでいた黄色の上着を羽織った。 「猿野君に由太郎君。君等の用事は後日聞くから 今日はちゃんを部屋まで送って休んでいいよ。 犬飼君と辰羅川君はまだ話があるから残ってね」 「ちょっ雪さん本当に秘球をこの短期間で 完成させるつもり!? そんな無茶したら犬君の体が危険だって!」 「あ、の口調戻った」 「ふー何度体験しても口調変化の時のはコエーぜ」 「ユタにお猿君は黙ってて」 犬君に才能があるのは認めよう。 大神さんという下地もあるし、昔の十二支と 今の十二支は違うのだから、更に高みに 登れる可能性は高い。 しかし、それにしても数週間足らずで秘球を完成 させるのは心身に強い負担を強いてしまう。 下手すれば彼自身の選手生命を短くしてしまう 結果にもなりさえする。 「う〜ん、やっぱり…ちゃんは反対するか」 白雪は首を下に向け、落ち込んでみせる。 それも仕方ないと、白雪は半ば思っている。 どうもは幼い頃から心配性で、何度も口煩く 過剰練習をする大神と白雪に怒った。 練習試合の応援をサボってと野球をしても、 嬉しそうな笑顔と一緒に先輩や監督から2人が 怒られないか心配していた。 その心配は的を射ていたし、後々になってから 聞いておいて良かったと感じもしたけれど、 今ここで言い負けるつもりは毛頭ない。 「そうだね、安心させるにはやっぱり約束かな」 はその約束の単語に緊張を少しだけ解した。 「まず特別練習には僕以外にも辰羅川君、 君も一緒に来てくれないかな?」 「あ、はい勿論です」 白雪の急な問いかけに動揺しながらも 辰羅川は是の返事した。 「これでストッパー役は足りるだろう。 練習方法は大神のノートを見てから最終決定を するつもりだけど犬飼君の選手生命を縮める ような事はしないと約束しよう。 これで、納得してもらえないかい?」 は自分の二の腕に反対の手を添わせた。 最低条件のみの約定だ。 最初から人柄としての彼を疑うことはできない。 そして私と同じくあの師匠の弟子で、大学で 本格的にスポーツ学を学んでいる人間なのだから 能力面でも十二分に信用もできる。 は肩の力を抜いて話の区切りを言葉にした。 「…わかった。それさえ守ってもらえるなら 他選抜の私が口出しする理由はないもの」 「よし、これで話は終わりだ」 白雪はその言葉で会話を打ち切った。 もそれは了解済みで猿野と由太郎に。 「行こう2人とも」 と言って先に公園の外に出て行く。 「お、おお」 猿野がそう返事し、由太郎と一緒にの 後を追いかけた。 その背が視界から消えるまで見送ると、白雪は 犬飼と辰羅川に差し伸べるように手を伸ばした。 「さて、ノートをみせてもらえるかい?」 「…はい…私が責任を持って管理しております」 古ぼけた汚い大学ノートには、同じくらい汚い走り書き が線と線の間を埋めていた。 「…フフ、間違いなくアイツの筆跡だ。 形見分けで君たちの元に渡ったと聞いてはいたけれど、 今となっては貴重な資料だからね…あれ?」 最後のページまで読み進めてから、疑問符が飛び出る。 「君達、ノートはここでお終い?続きはどこかな?」 数ページ戻って見返す。 「続きも何も私共はこのノートがすべてだと暗記するほど 見返して吸収したつもりですが」 白雪は辰羅川の確認を聞いてから天を仰ぐ。 「大神のノートはこの一冊で完結していないよ。 だから君達の四大秘球は未完成だったんだ」 だとしたら、残りのノートはどこにあるのだろう? 「お家の方は確かにノートは息子の可愛がっていた 子供達に贈ったと…」 「その子どもがさんという可能性は?」 「ない。ちゃんは違う形見をもらっている」 それを持って、彼女は僕を大神の死のショックから 引き上げた。『雪さんも私も他の人もいっぱい泣いて悲しんだよ!! でも、大神さんきっとそれで満足できないよ。 大会、行けるとこまでいかないと、きっと落ち込ん じゃって自分が嫌いな幽霊になっちゃうよ!』
2人共、目元は赤く腫れあがった。 何日も満足に食べ物が喉に通らなかった。 違うのは、大神の目標を続ける僕を立ち上がらせるため、 気丈で在らなくてはいけないと強く思い込めた強さ。 結果は予想通り散々だったけれど、大神が マウンドに立っていないことを除けば、 それほど悔いは残らなかった。 「は、何をもらったんすか?」 「君達も良く知っているモノだよ」 きっと、この大会にも持ってきただろうな。 大神はちゃんには技も目標も預けなかった。 ちゃんがそれが悔しかったのかもしれない。 好きな人にもらったものは野球帽子と、 強く見せるために意地を張る経験だけだったから。 NEXT