ドリーム小説


25





「雪さん大神さんー!」
「あ、来た来たこっちだよちゃん」
「ちゃんとグローブとバット持ってきたか?」
「うん!」

それから受験勉強の息抜きと称して大神と白雪は
と一緒にいることが増えた。
魁や由太郎と同じように気楽でいられるこの
2人と一緒にいるのが本当に楽しかった。
白雪と大神も純粋に慕ってくれるを妹の様に可愛がった。

「大神さん投げ方大振り過ぎだよ。投げた後の手が力んでる」
「そ、そうか?」
「お義父さんと同じチームの人が魁兄に話すんだけどね、
技術より基礎体力がなくちゃ話にならないんだって。
だから今のうちにきちんとした筋肉つけておけって」
「じゃあ、どんな球が試合で使えるとかも聞いてる?」

白雪に聞かれては色んな出来事と一緒に話をした。

「んーとね…」

の観察力は子どもとは思えない高さに2人は舌を巻いた。
それでも、2人はをやっかむことなく褒めた。
は、2人の役に立てるのが嬉しかった。

それに、大神に褒めてもらえるのが楽しみだった。

幼い恋心はゆっくりと心のテリトリーを大きくしていった。





季節は周り、春になると大神と白雪は十二支高校に進学。
自分の父達の後輩になった2人には
嬉しさも不安も抱えていた。

最近、お義父さんは新しく変わった監督との意見が
合わないとかでビールをいっぱい飲んでから私達に
愚痴を漏らす回数が増えた。
夢を叶えたお義父さんでも苦労は絶えない。
高校生になると甲子園が明確な目標になる。

それには、自分は2人の重荷だ。
年でも性別でも力の差は歴然としている。
自信を持てるのは、打率と年相応でない知識だけ。
役に立てる範囲は通り過ぎた。

舞い散る桜は綺麗だけど、それ以上に鬱陶しく感じた。
花弁を散らせる様子はまるで置いていかれる
自分を体現しているようだったから。



だけど、十二支は父達の時代と変わっていた。



「何で1年が試合出れねーんだよ!!」
「ほらほら大神。煩いし近所迷惑だから落ち着いて」
「でもほら、準備期間長くなって土台を焦らずに造れるよ」

そう、役立てる期間が長くなった。
2人には悪いけど、私にとっては本当にラッキー。

「お、そうだ今日はちゃんに渡すもんあるんだよ」

そう言って、大神はカバンから袋を取り出し、
その中身を見せた。

「野球帽子?」

真新しいビニールに包まれた黒の野球帽子。
どうやら大神のと同じメーカーのようだ。

「そ。安物だけどいつも頑張ってるちゃんにご褒美」
「大神にしちゃ気が利いてるね。ちゃんいつも
何もかぶらないから日射病とか気にかかってたんだよ」
「へへ、ありがとう大神さん!」

大神さんから初めてもらったプレゼント。
しかも、お揃いの帽子。
本当に、これ以上ないくらい有頂天になった。
もっと頑張るね。
大神さんとずっと一緒にいられるくらい強く…。




「ユタ変化球覚えるから練習付き合って!」
「いいけど、が投球練習したいなんて珍しいな」
「うん、力勝負は無理だから小手先勝負するの」
「ふーん、まあ覚えて損じゃないもんな。
にいちゃんが投げたいんだっって!」
「魁兄グローブ貸してー」

私は魁兄とユタと、大神さんと雪さんは部活で練習する。
会える日はとても少なくなったけど、それでも
大好きな人達と野球が出来る私は幸せなんだ。




「大神さんそのノート何?」

練習試合の応援サボって一緒に練習する大神と白雪と。
ノートにシャーペンを走らせる大神の大っきな背中
に負ぶさるカタチでは聞いた。

「必殺技欲しいからその制作ノートだ」
「今のところはいろんな球種調べだね」
「ふーん、じゃあこんなのどう?」

沢山の球種を調べて覚えてた。
幸一さんから習うマッサージや、師匠からの鍛錬は自分の為
だけどね、この球は大神さんのために覚えたんだ。
好かれたいと思うからこそ、実行できたんだ。







「え?ひ、引越し?」

もう少しで冬が来る晩秋、お義父さんから聞かされた
台詞に返す声は酷く震える。

「ああ、瀧野先生には俺からも言う。なーに、引越し先
はすごく離れてる訳じゃない。時々なら帰ってこれる」

でも、大神さんと雪さんとは、もう一緒にいられない。



「そっか、それじゃしょうがないね。何かあったら僕に
迷惑だからとか、悪いからとか考えないで電話なり
手紙なり書くんだよ」
「来年になったら俺達も3年だから、そしたら
甲子園は一緒に連れてってやるからよ」
「うん」

気のきいた返事なんて、できる余裕はなかった。
ただ、じくじくとした寂しさが痛かった。
もしかしたら私は、"いかないで"と言って
欲しかったのかもしれない。




また、家族以外に頼れない日々が続いた。
魁兄は中学校に入って、ユタは私と同じ小学校だけど、
違うクラスになった。

また、嫌な出来事が起きたけ今度は自分だけで何とかした。
お陰で一緒にいられる子ができたけど本当の友達
とは言えない気がずっと続いていた。
そんな、自分でも好きになれない私のまま、日々は過ぎた。

そう、あの足元が崩れる日まで・・・…。











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