ドリーム小説


12





「よく無事だった!!」
「痛、痛いから!腕の力弱めて!!」
「勝手に逃げ回って集団行動乱したんだから当然の報いよ!
もっとやっちゃいなよ!」
「煽るな燐―!!」

押しつぶされそうな抱きつきには悲鳴を上げ、
雉子村とキャシーはそれを呆然と見ていた。

『日本人って消極的だって聞いたけどそうでもないじゃない』
『これは絶対に特殊な例だ』


後に大阪でこの発言を撤回せざる得ない状況に陥ることになる。


『報酬はどうなる?』
『交渉するから通訳して』

雉子村は素直に頷き、2人はの側に寄る。

『あのね、私黄泉に去年の試合録画を見せたの。
それで今回の礼にBlack  butterflyと試合させろって』
「キャシーハ今回ノ礼ニ俺トオマエノ試合ヲ約束シタ。
表へ出ロ」

ドアの先を顎で指す雉子村に、はぞくりとした感覚を持った。
それは、強い相手を見つけたとき独特の、体の内から出る雄たけび。


「上等!!」





「で、結果は……聞かなくても分かるわな」

うな垂れた猿野にはにっこりと対戦結果を語った。

「21本ファール後、時間切れで引き分け。私が投手の試合は
次の日の朝にしたのは1ファールでこっちの勝利。それから
帰る日まで何度も打席にもマウンドにも上がったわね。
どうやら空振りをまったくしない私は癪に障った様だったよ」







「今日は決勝だから、勝っても負けても今日が最後です」

ソフトボールを右手で玩び、左手で野球ボールを玩びながら
雉子村に報告した。

「フン、コノママアメリカニ残レバイイダロ。
ソレダケノ力量ガニアル」
「雉子村さんも我侭ですね。私は大切な家族と友人が日本で
待ってるので何が何でも帰りますよ。今まで色々ありがとう
ございました」

「英語クライ覚エロ。ノハ文法ガ滅茶苦茶ダ」

はその叱責に胸に矢じりが刺さった痛みを味わった。

「はい、頑張ります」
「又来年来イ。次ハ空振リサヲセテヤル」
「それはどうでしょう?私は負けず嫌いなんで雉子村さん
にも負けませんよ」
「黄泉」
「ん?」
「ファーストネームデ呼ベ」
「黄泉さん、ですか」
「ソレデイイ。Good by my    」

黄泉は口元にの長い黒髪を触れさせて、いつもの
帰り道を歩いていった。
最後の1単語は聞き取れなかったが、悪口ではないみたいだった。


「アメリカ在住になると、ああいう動作様になるなー」


気温の暑さのせいじゃない、恥ずかしさの混じる頬の
赤らみに触れながら、は呟いた。

大神以来、初めて男の人にときめいてしまった。



「んでもって、後はお猿君も知る通りよ。ソフト辞めて
黄泉さんとも会わなくなった。そしたら黄泉さんは日本に
来てて、再開した。因果なものね」

本当は、黄泉さんにもお猿君にも大神さんと近い何かを
感じたから、2人の関連に気づいた。
黄泉さんは私の野球帽子かぶったらちょっと似てた。
お猿君は笑い方が大神さんと似てる。
ただそれだけの共通点で、血を感じた。


「俺のとこはそんないい思い出じゃねーな。親父が飲んだくれで、
兄貴の野球の才能を見込んでアメリカに高飛びした。
お袋と俺を置いてな。俺ん家が母子家庭なの知ってたか?」

は横に首を振った。

「だから本当の親いないには正直親近感沸いてた。
親いなくたってちゃんとできるって証明してくれてるみたいでさ」

知らないが黄泉はに親近感を抱いていた。

猿野とはまた違う方向でだが、それでも兄弟は1人をはさん
で同じ感情を持ったことになる。

「お猿君は、どうしたいの?」
「野球で兄貴をぶちのめしたい。
俺は凪さんに会うまで野球嫌いだったけど、今は違う。
特訓は辛かったし、イラつくことも沢山あったけど、
毎日が満たされてた。
だから、一番嫌な記憶とケリをつけたい。
あっ、だからって大阪戦手抜く必要ないからな!
俺は決勝でとも闘ってみたいとも思ってっから!」

慌てて言葉を付け足す猿野には苦笑して手のひらを振った。

「はいはい分かってますよ。心配しなくても手抜きなんか
するわけ無いでしょ」

そう、手抜きができる相手じゃない。

は壁の時計を見て、時間を確認した。

「今日はもう遅いわ。寝ましょうか」


どこか引っかかりを残しながら、と猿野は
各自の部屋へと戻っていった。







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