7 「プレイ!」 試合開始の合図。 先攻は群馬で、バッターボックスに清水が入った。 キャッチャーマスクをかぶったは 右の膝を地面につけ、体勢を整えた。 『先発は切原琴美選手。女子野球にて優勝を何度も飾る 彼女ですが、その力は男子に通じるのか!?』 アナウンスが途切れるのを見計らって琴美は大きく振り かぶり、斜め上気味に腕を振った。 パアァァン 「ストライク!」 「スリークォーターだ!」「剣ちゃんと同じなのね」 中宮兄弟が言葉を切る。 「速さは130はいってると思いング」 「遅くないけど、パッとしない気」 久芒と朱牡丹はそう言い漏らすが、を含めた女子 選抜に不安の色はない。 「琴美の凄さはこれからこれから」 はセンターでも後ろの方に構え、 スパイクに土を擦り付ける。 2投目が投げられ、これはファール。 3投目は、握り方に変化があった。 「今度こそもらった!」 清水はバットを振るが、球は小さく縦に落ちて空振りした。 パアァァン 「スリーストライク!バッターアウト!!」 「まずは1人目終―わり」 グローブで口元を隠して琴美は微笑した。 そして琴美は残り2人も同じように小さく落ちる球を 上手く使って空振りを誘った。 1回表、三者三振で終了。 『まずは切原さん三振で全員を切り捨てた!! 男女差の運命を覆すだけの力が彼女にはあるのか!?』 「ちょっとアナウンサー!聞き捨てなら無いわね!!」 琴美は気分を害したと声を荒げた。 「運命は変わらないって誰が決めた? 男よりも女が弱いなんて誰が決めた? 体力差はあっても他のものでも補えるから 私達はここに立ってる。 今まで立つ事も許されなかった場所に立ててるのよ。 運命は自分の意志と行動で作るもの!! 誰にも邪魔させない!! 邪魔する者は私の膝元に屈服させる!!」 「出た琴美節」 はキャッチャーマスクをかぶりっぱなしで呟いた。 運命論をまったく信じない強気の神奈川の女帝様。 相変わらず天上天下唯我独尊だ。 「うおおおぉ―!!切原さーんカッコイイっすー!!」 「女帝漢らしい〜!!」 スタンドの応援に酔いしれながらベンチに戻る途中の琴美 には琴美の腕を軽く叩いた。 「お疲れ琴美。スマートなアナスイだったよ」 アナスイとは先ほどの琴美の球の名称だ。 私がインドの神々を名称につけるように琴美は 香水の銘柄を球種に割り当てている。 「ふふっ守備での活躍は期待しちゃダメよ」 「期待しときましょう」 「剣菱投球酷似」 牛尾と紅印が球の正体を見破って解説と解釈をし始めた。 「あれはスプリットフィンガーファストボールね。通称SFF。 手首のスナップが難しい球よ。フォークよりも深く指を 挟まなくていいから確かに手の小さな女の子には フォークの代わりとして最適だわ」 「スリークォーターも肩の負担の軽い投げ方だ。 男性よりも怪我を気遣う女性の気配りかな?」 それを考えると、剣菱の体への気遣いも見えてくる。 「問題は見破られてからの対応だぜ」 「次の回は2人クリーンナップ残ってるしな」 影州と小饂飩が口を開いていると、裏の回が始まった。 1番打者の小沢恵子がバッターボックスに入る。 「まずは、保険代わりの点取って行きましょうか」 「怪我しないように後ろのほう下がっておけよ」 キャッチャーの赤城は親切ともとれるようで実は 皮肉の台詞を吐いた。 「心配どーも」 恵子は適当にあしらって投げられた球に合わせて バットを振った。 恵子は1塁に出たものの、次のせあらでゲッツーを取られ、 由乃は1ボール1ファールをとるが、三振で回を終えた。 「まずは1イブニングどちらも0行進。 さーて、舞台は終盤に爆発だ」 少しずつ上がる興奮に身を任せ、暴れる時間は 下ごしらえが必要だ。 NEXT