#14
記憶喪失。
あまりにも現実味のない単語だった。
「どうするのよ!がああなっちゃって、も病院から
出たきり全然どこにいるか分かんない!!」
「燐落ち着いて!2人ならなんとかなるよ!!」
どうすればいいかなんてちっとも分からなかった。
泣きはらして、疲れて寝て、早朝、は寮に帰ってきた
時には、長かった髪は長さが不ぞろいにバラバラになっていた。
あの黒蝶と言われたくらい綺麗な髪はもう肩につくか
どうかくらいになっていた。
「残りの髪、全部の家においてきた。
こんな事になったケジメはつける。
…燐、香苗、部活よろしくね」
は、新学期を待たずに学校を去った。
あっという間。
たった1日足らずでいろんなモノがなくなった。
「実家の住所も電話番号も引っ越す前のしか教えてなかったから
本当についさっきまで1回も会話すらしなかったの」
お義父さんの球団トレードで私は小5の春、埼玉から1度離れた。
お父さんが引退して私が中2の時家族は埼玉にもどり、魁兄は
黒撰に転校し、お父さんは監督となった。
私は全寮制の六龍にいたから帰ったのは中2の3学期。
本当に、六龍時代の人にはまったく会わないようにしてた。
「十二支に入ってからも、中々決心がつかなくて連絡もしなかった。
この数日間沢山の人に怒られたよ。
今までのことを話して、時には言い訳を入れて、
それでも燐以外は全員納得してくれたけど…」
「だからって許せるわけないじゃん」
香苗は燐の合い向かいのソファーに腰を下ろした。
燐は返答もしないまま、窓の外のネオンの光に
目を落としていた。
「……香苗、本当に選抜辞退すんの?」
「うん。私がしたいのはソフトだよ。私は恨んでないし、
ソフトに戻る気なしって分かったらここにいる意味ないよ」
魁さんいるのに帰るのは名残惜しいけどね。
香苗の心の本音は燐には届かなかった。
は完璧と呼べないけど、最強だった。
勝てないと、思い知っていた。
ソフトを投げ出したのは、経過は違っても薄々気づいていた。
「は、ソフトしてても野球を忘れてなかったよ」
1年の時からずっと一緒にいたから分かっていた。
はソフトじゃ物足りなくなると。
「向上心なんて綺麗な言葉じゃない。あれは…貪欲」
1つの場所にずっと収まることができない。
満足しても、すぐに次の段階に手を伸ばす。
じゃなければ、日本人でも小柄ながあそこまで
実績を出せる訳がない。
「私は燐みたいに、を追いかける事は出来なかったから燐の
本当の辛さは分かってない」
全てが上を行くと同じ位置に立ちたいとは思っても
越そうなんて考えられなかった。
私にとってはライバルである以前に友達だったから。
だから、一番太かった関係が切れても繋がれる。
ただ、燐はソフトでない、違う繋がりを見つけられてないだけ。
「……燐、素直になった方が気持ちは楽になるよ」
「うっさい」
単語のみの返答は焦りと、苛立ちと、ほんの少しの照れが
含まれていた。
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