#11












「もう、燐ったらどこ行ったの!」


ホテルの中を駆け足で進み、おのぼりさんの様に見回す
彼女は高野香苗。

元六龍メンバーの1人で、燐と同じく女子選抜選出大会に出場
していたが、彼女は選ばれたとしても辞退する気満々であった。

それは、が野球を選んだのとは反対に、
香苗はソフトを選んだから。


硬球よりも大きなソフトボールの方が好きで、ルール的にもソフト
の方が好みな香苗にはソフト>野球の公式は取り壊せない。

今回は1年で全国にも行けず、選抜にも選ばれなかったので
友達付き合いで参加した程度なのだ。

部屋を覗いては燐がいないと分かるとため息を1回吐いた。


早く燐と仲直りさせたいのにどこ行ったんだろ。

また探索に戻ろうと体の向きを変えたら
ドンッと人にぶつかって尻餅をついた。


「すまぬ。大丈夫か」


ぶつかった人は焦った声で香苗に手を伸ばし、
香苗は早口で謝罪した。


「ごめんなさい、私前向いてなかったから……あ!


香苗は首を上げて、ぶつかった人の顔を見て大きな驚きの声を上げた。


「魁さん!」

「?お主何故拙者の名を……ああ、もしやの」

「はい!六龍中ソフト部所属してましたの友達
高野香苗です!!」


言葉の途中での名前が出て緊張と困惑の混ざる
様子で自己紹介した。

魁さんどうしてここに!?いや、魁さんほどの人なら選抜
選手になって当たり前…でもこんな偶然ってあり!?


「香苗、聞いたことがあるな。確かバントがとても上手いとか」


そして、今が悩んでいる主人物の一人…。


「いえそんなことはないですはい!」


魁を見て顔を火照らせてしまう香苗の様子を誰かが見ていれば、
香苗が魁に持っている感情を的確に言い当てたであろう。

それ故に香苗は自分でばっと立ち上がって今の自分の服装
が恥ずかしくなった。

何で今私はジャージなんだ!せめてもうちょっと可愛い私服だったら!!



「何故道を急いでいた?」

「あの、魁さんは燐…は分からないか。

なら、が何処にいるかわかりますか?」


の所在を聞かれ、魁の眉がピクリと動いた。

香苗はそれを怒っていると思って急いで理由を付け足した。


「言っておきますけど私が恨んでるとか裏切ったとか思ってる
ならそれは勘違いですから!私とはもう和解できてます!!

私はにソフトボールに帰ってきて欲しいだけでして……
今日きっぱりフラれちゃいましたけどね」


ごめんね。

あの綺麗な顔を上げて、まっすぐに言った。

私は知っている。

あのを曲げられる人は誰もいないと。

だから、ソフトにはどんどん人がいなくなる。

すごく残念だけれど、私は私で、で頑張るしか
ないから最後に握手して別れた。

これからは仲間じゃなくて普通の友達だねと言って。


「もう1人の燐はまだ荒れてるんですけど、根は…ちょっと
腐ってるかもしれないけど
そんなに悪い子じゃないです!!」


香苗は一気にまくし立て、肩で息をして、意表をつかれた様に
立ち尽くす魁を不安そうに見た。


魁さんを知ったのはに見せてもらった家族写真。

村中大打者が見たいと言った部活仲間に照れるようにして見せていた。

その内に仲間内で魁さんと由太郎君どちらが好みかという話に発展し、
私は断然魁さん派だった。

本物に会ったことないのに、好きになったくらいに好みだった。

そしてその本物が今目の前にいる。

ミーハーなのは自覚していたが、試合前よりもドキドキして
どうしようもない。


「その様に必死にならずともよい。あのような事があっても
好いてくれて誠に感謝する。残念だががどこにいるかは分からぬ」

「そ、そうですか。ではもうちょっと探すので失礼します!」


香苗はお辞儀してから脱兎の如く走り去った。

ヤバイ、写真よりもっと好みになってる!!
これ一緒にいたら心臓破裂する!!



六龍4人組の中で最も一般人に近い高野香苗。

彼女は恋にとても奥手であった。




















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