#09








球場内の廊下を走り、猿野を捜す集団。


「もうこっちって豊臣スタンドの方だよ」


いや、多分分かってて来たんだな。

あーもう、これであの人に会っちゃったらどうしよう。

絶対根に持ってるよね。


いたZe!」


虎鉄が指差した先に雉子村親子と対峙している猿野の背中があった。


「ククク…埼玉代表だと!?なるほど、お前の様な者が
平気で選ばれるレベルな訳だ…」

「何!?」


一触即発。

その状況を打破する為なのか、は大きく息を吸った。


「お猿君!!!」


の大声にビクリと肩を揺らしてから
猿野は後ろを振り返った。

だから、猿野は黄泉が驚く顔を見ることはできなかった。



、皆」「!」



猿野がどうして皆がここに来たのか問いただそうとする前に、
黄泉が猿野の横を走って通り過ぎ…。



「雉む」

ガバッ





己の名前を言いかけたをいきなり強く抱きしめた。




「「「「「「「!!!!?????」」」」」」


本人を始め、全員が声の出ない吃驚が心中に走り去る。




「会イタカッタ」




先ほどまでの冷淡な口ぶりとは真逆の愛おしそうな声色。

今自分の腕の中にいる存在をよく確かめるように
手のひらをの頭に押し付けるので、
なす術なく黄泉の胸にうずまってしまった。


「雉子村さんお久しぶりですと言いたい所ですけど
今すぐ離して下さい!!


突然の事でフリーズすることなくは両手で黄泉を押して離れよう
とするが力の差は歴然としていて黄泉はびくともしない。


「黄泉ト呼ベト前言ッタ」

「〜っ黄泉さん!離して下さい!!」

「イヤダ。約束ヲ破ッタガ悪イ」


「それについては本当にごめんなさい!
でもそんな立派な体格で我侭言わないでく

に何してんだ!!アメリカ野郎!!」


バリッ

「ユタ!」


由太郎が青筋浮かべてと黄泉を強制的に引き離し、
はほっと胸を撫で下ろす。

そしてがすぐさまと黄泉の間に入り込んだ。


「久々だな雉子村」

「加西カ、オマエマデイルトハ驚キダナ」

ちゃんこのセクハラさんとどんな関係?」


兎丸がの盾になるように前に移動しながら聞いてきた。


「JSの遠征合宿の時に知り合った人だよ」


まさか日本にいるなんて夢にも思わなかったけどさ。


先ほどの一難でドキドキと心臓が煩く運動してしまい、
押さえつけるように片手を胸に当てた。


「黄泉、その娘は?…それに、その顔は…」

、Black Butterflyダ親父」


九泉は息子からの返答に怪我をしていない目を大きく開いた。



「もしや、両親は司と紗耶か?」

「そうですけど」


首をかしげ、は頷くと九泉は顔を明るくした。


やはり!紗耶と顔の造作が似ている。色素は司そのままだな」



「当たりだな」

「うん」


由太郎とが顔を見合わせた。

両親を知る人にしか分からないの両親から
受け継いだ外見特徴を彼は的確に言い当てた。

十中八九、本当に会っているのだろう。


「昔、君の両親には世話になってな。彼らは元気か?」


どこかの悪役のような洋装である九泉は間違いなく
の両親に好意的であるのだろう。

しかし、長い間連絡の取り合いはなかったようだ。


「いえ、11年前に、共に亡くなりました」


そうが伝えると九泉は次第に気落ちした表情へと一転する。


「死んだ?あの2人がか?原因は?」


は言いよどみながら口を開いた。


「……出張先での事故です」


は、喉から押し出すように言葉を紡ぎ、九泉は目を伏せた。


「そうか、先に逝きおったか。しかし奴らの娘が黒蝶とは
…県対抗戦には期待できそうだ」


九泉はそれだけ言って、黄泉に目配せした。



「マタ後デナ。


「もうに近づいてくんな!!」


由太郎は思い切り怒声を吐いて黄泉を睨んだが、黄泉はそれを
鼻で笑って後ろを向いて歩いていった。


「父さん、母さん、人脈広すぎるよ……」


のその呟きはまぎれもなく本音だった。










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