#03






Aチームの4人が守備配置についた時、道路のわき道
から何人かの女子がこっそりそれを観察していた。


「お、いたいた。あれが埼玉選抜だってさ」


そう角の壁から練習を盗み見てるのはの相棒、加西


「結構イイ男いるじゃない」


元JSメンバーの1人、切原琴美が色めかしい目で
同じようにそれを見る


「琴美、お願いだからこの大会中は男漁んないで」

「分かってるわよ。ちょっとせあら、私の背中で寝ないで」

「だって、眠い…」


琴美に背中にくっつく少女は刀祢せあら。


「私が刀祢さんホテル連れてこうか?」


こちらも元JSメンバー小沢恵子がひょいっとせあらの
猫を扱うように首根っこをつかんだ。


「ヤダ…ここいる。また叩かれる」


せあらはの背中にふらふらとくっついてそう言った。


「あら、ちゃんと力はセーブしたわ」

「あれで!?」


さらりと発言した琴美にでなくが驚いた。

再開してすぐさま素晴らしいフォームでパアァンと
頬が平手打ちされたのは記憶に新しい。

は避けられなくもなかったが、敢えてそれを受けた。


「1年以上連絡1つ寄こさなかったんだから当たり前でしょ」


くるくるの肩より少し長い髪を乱暴に後ろへと叩いて
琴美はそう言った。


「うん、ごめんなさい」

「分かればよろしい」

「……練習見なくていいのか」


忍のぽそりと呟かれた言葉にはっとたちはグラウンドに目線を戻した。


「………やっぱお馬鹿だ」


は重いため息といっしょに言葉を吐き出した。








「プレイ!」

試合開始の合図で各チームの投手が一斉に球を投げ始めた。


「はて?日会の言ってた鳥居はんって人が見当たらへんよ」


京都の高校でと同じように男子と野球を
している真寺由乃が扇子をパチンとならした。

どうやら七橋の古家日会は前からの友人だったそうな。


「剣菱さんは入院中」

「それは残念どす」

さん、あの火傷の人が屑桐無涯?」


茶髪に染めている松林瞳はつんつんをつついてそう聞いた。

指差している方向には牛尾と一言もしゃべらないで気まずい2人がいる。


「そうですよ。よく知ってますね」

「ウチのおとんがカープ選手のスカウトする仕事してるん。
屑桐無涯は要チェックだって言っとったよ」

「あ、それは松林さんのお父さん良い目してます。無涯さんは確かに
要チェック…でも今日は調子出てないみたい」


気迫が足りないよ。落ち込んでるって言った方が当たりかな。


「それでも話に聞いてたほどじゃないな」


比嘉の一言がぐさりとの胸を貫いた。


そう、全体的に息があってないし、バラバラだし。

特にAチームは最悪だ。




「だ〜クソテメー手抜いてたろ!ほら球とってこいよ!」

「テメーが俺に指図すんじゃねー!何月生まれだテメー!
俺は10月だぞコラ!!」


猿野と御柳のとてつもなく低レベルな争いに
仲間から失笑が聞こえてきた。

恵子が笑いながらに目を向ける。

「だったらはこの大会まず間違いなく一番格下ね」

誕生日:3月25日。しかも1年。


「誕生日で優劣決められてたまるか!」


のツッコミにさらに笑ってる恵子の後ろで比嘉が
更に辛らつな言葉を吐いた。


「でもさこれって黒蝶のお前が気にするほどのもの?」

「言い訳聞いてくれないよね…」


琴美がふんっと鼻息を鳴らした。


「分かってるじゃない。これ以上は見る必要ないわ。
さっさと用件済ましなさい」

「はーい」


丁度その時、グラウンドからゲームセットの掛け声が聞こえてきた。




「てんめぇぇ〜やる気あんのか!?チームメイトの
言うことくらい聞けや〜!!」

「テメーみたいな下手くそに命令される謂れはねーよ!リトルから
やり直せや!!こんなのに時間使ったに同情するぜ!!」

はカンケーねーだろ!!今アイツはここに
いねーんだからよ!!」


御柳の手を叩き落とす猿野に凛とした、聞き取りやすい
ソプラノが耳の鼓膜を揺らした。




「いるっていったらどうする?」





たった数日聞いてなかっただけなのに、

どこか懐かしく思えるそんな声に、

何人の人間がはっと声の方を振り向いただろうか。




振り向いた先には真紅のユニフォームと黒のアンダーシャツを
身に着けた女子たちが、ピンと背中を伸ばして立っていた。

その内の前に立っている黒い帽子を被った女子が、
ぱさりとその帽子をとって顔をこちらに見せる。


間違いなく………。


「女子選抜候補、チーム"零"。埼玉選抜へ挨拶に参上しました」


陽だまりに似た微笑みはまったく変わりなくそこにあるのに、
どこか違う気がしたのは、背負った運命への決意の光だと
誰が気づくだろうか。





彼女は十二支野球部としてでなく、敵として、
初めて彼らに姿をみせたのだ。


大きな変化が彼等に押し寄せられる。




















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