#33
『ゲームセット!勝者、華武高校〜!!!』
華武vs七橋戦は監督と主将というおおきな柱を失っては
王者の前には風前の灯にしかすぎなかった。
牛尾はその結果を観客として見守った後、
蛇神の通院している病院へと足を運んだ。
「牛尾」
「華武の優勝が決まったよ」
蛇神は気落ちした牛尾をベンチに座らせ、
また自分と続いて腰を落ち着けた。
あごをやや上げると木漏れ日のもれる光が目に
飛び込んでくる。
「――よい気候だな。この世の彩りをしかと堪能
できる…無上の喜び也」
一時は目は諦めたが、この様にまた色彩と光景を見る
ことのできる喜びは、こうなってみなくては味わえな
かったであろう。
「殿の消息は?」
蛇神が牛尾にそう訪ねると、牛尾は力なく首を振った。
鳥居剣菱と東蘭風監督の付き添いとして凪とは
救急車に乗り込んだ。
『荷物は監督が責任持って私の家に持っていって下さいよ。
では行ってきます』
それだけ足早に言い残しては球場から去った。
次の日、は部活に顔を出さなかった。
「家に連絡を入れてみたけど」
電話口に出たのはの義兄、魁であった。
『すまぬが、拙者にもの行方は分からぬ。
当分は家にも帰ってこないと親父殿の一点張りだ』
魁も、のことを心配している様子だったが、
さほど不安は感じていないようにも思えた。
『がいきなり家から消えるのは初めてではないのでな』
その声色は君と魁君の強い信頼感を感じさせた。
「君のことだから考えあっての行動なんだろうけど、
やっぱり僕は心配だよ」
野球を終えた悔しさと、大切な女性の心配で、
心がどうにかなってしまいそうだった。
+
同時刻、犬飼と辰羅川は大切な師の墓の前で
手を合わせていた。
「ご報告が遅くなりまして申し訳ありません大神さん。
我々の力及ばず十二支は準決勝で敗退し、昔貴方の元で
共に学んだ仲間の御柳君は華武高校で優勝を果たしました」
犬飼は屈んで墓前に報告する辰羅川の肩を乱暴に掴んだ。
「辰、アイツを仲間なんて言うな。
アイツが変な色気出さなきゃ、大神さんは死ななかった」
4年たった今も風化することのない憎しみが、
犬飼の感情を支配していた。
辰羅川は苦虫を噛んだ様な顔になり、ふと目線を反らすと、
毎年みる色が墓を彩っていることに気づいた。
「そういえば、また白と青の矢車菊が供えられていますね」
自分達の持ってきた菊と共に墓石を彩る矢車菊は毎年
この時期になると必ず供えられている。
「大神さんの知り合いが供えたんだろ」
「そうでしょうね」
日数が経って水気が飛んで張りのなくなった矢車菊は
それでもまだ色を保ち続けていた。
それは、年月が経とうとも故人を想う気持ちが色あせていないと、
そんな雰囲気を辰羅川と犬飼は感じ取っていた。
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