#32











『試合終了〜!勝者セブンブリッジ学院〜!!!』



試合終了を告げるスピーカーの音は遠くから
聞こえてくるようだった。


野球部に入部して、何回涙が出てきただろうか。


こんなに熱い日々を送れたのは何年ぶりだった?


ベンチではあちこちからくぐもった声が漏れて……あ。



頬に触れると指が濡れている。


声もなく、ふいに溢れてしまう水滴は、

ぽつんっとベンチの床に染み込んだ。



終わってしまった。



十二支の夏はこの一滴の涙と一緒に消え去った。






ドサッ


倒れこんだ音がして、ふっと視線を上げるとマウンド
の剣菱が血を吐いていた。


ガタッ


凪は勢いよく立ち上がって、体をわなわなと震わせた。

はそれを見てがっと凪の手を掴んだ。


「凪行くよ!」

「で、でも

「でもじゃない!!あんたの兄さん大変な事に
なってるんだ!今行かないと後悔する!!」


は反対の手で救急箱を掴んだ。


「先に行きな」


は強めに凪の背中を押した。

凪はふらふらとグラウンドの土を踏んで、一気に走り出した。


「お兄ちゃ〜〜ん!!!」



は水の入ったペットボトルを持って凪の後を追った。


「っ約束違反だ!」


は強引にペットボトルを押し付けて剣菱にそう言った。


「あはは、めんご〜ちゃん。

でも、最後まで投げきりたかったんだ」


「ああ投手なんてのは大概がそうなんだ!

魁兄も、犬飼も、子津も、鹿目先輩も、あの人も!

皆が皆、後のこと考えずに投げ続ける!!」


剣菱はペットボトルの水を吐いて、口の端に流れた
血を袖で拭いた。


ちゃん、貴女まさか剣ちゃんの病気のこと…」


紅印ははっとそれに気づいては処置を続けながら
叫ぶように答えを返す。


「知ってた!でも止められなかった!!

後悔するのを知ってても、凪への裏切りだって思っても、

でも野球をしたいって気持ちが止められないことを

知ってたから!!」


凪はそれを聞いて言葉がでてこない。

兄の血を拭くのを止めて、を見ていた。


「凪、私を恨んでいい!もし私が止めてたら…
「大変だ!監督が倒れた!!」


の言葉は違う訃報を告げる声によって遮られた。


「何で次から次へと!」

ちゃん監督を診てやってくれないか!?」


「土本さん剣菱さんベンチに運んで!

ここじゃ日差しが強すぎて余計に体力を持っていかれる!

血で喉がつまるから仰向けには絶対しないように!!」

「ゴホオオォ」


土本は言われた通りに剣菱をそっと肩にかついだ。


「紅印さんと雀さんは剣菱さんを運ぶのを補助!

ワンタンさんと影州さんは東蘭風監督の看護の手伝い、
宝町さんは医務室に行って救急車を2台手配!」


足早にはそれを申し付けて七橋のベンチへと走った。


「東蘭風監督の様子は!?」

「急に倒れちまった。熱が高いみたいだ」


富豪がどうすればいいのか分からずに東蘭風監督についていた。


「布を集めて、ユニフォームの上着でも問題ないです。

呼吸が苦しそうなので体を仰向けじゃなくて横向けに。

呼吸のタイミングに合わせて背中をさすって下さい」


はそこまで指示すると救急箱から冷たいアイスノンを
取り出してタオルで巻いて東蘭風監督の脇を冷やした。

ちゃん剣ちゃん連れてきたわ!」

「まずはベンチに座らせて、絶対仰向けはしないように
剣菱さんの落ち着く体勢でいさせて下さい」

「医務室の先生呼んできましたよー!」


宝町がベンチと廊下を繋ぐドアから勢いよく出てきた。


「救急車はどれくらいの到着になりそうですか?」

「後10分はかかる。処置はどのようなのを」

「投手の人の方は…」


七橋は勝利の余韻に浸ることなく、と凪も敗退の
悲しみを十分とることなく、球場を去らねばならなかった。




その時からは十二支……それどころか

埼玉から忽然と姿を消してしまった。




















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