#29










 ゴホッゴホッ ザー


洗面台に鮮血の赤が飛び散り、嫌なものをみたくないと
剣菱は蛇口を捻ってそれを流してしまう。


どうして、こんな時に…最後なんだ…もう少しなんだよ…

もってくれ、頼む。


切実な願いを奪うように、倦怠感が体中を覆う。


瞼が重い。

苦しい。

でも、まだ、グラウンドに立ちたいんだ。



「剣ちゃん」


後ろから紅印の声が聞こえ、剣菱は口元を隠して
思い切り振り返った。


「あなた…その洗面台 よく見せてごらんなさい」

「いやっ何でもないよ。ちょっと顔洗いにきただけで「お黙り!!!」


声を大にして叫んだ紅印の後ろには心配そうな目をしている
影州、雀、ワンタン、土本がいる。



やめてくて。

気づかないでくれ。




「下手な嘘はもう…終わりにしましょう。

アナタ、本当はまだあの頃の病気が治ってないんだわ」


紅印の告知は、剣菱には突き落とされるかのように聞こえた。


「待ってよ…どうしてそんなこと言い出すのか」

「アナタが!!……アナタがそうやって何でもない顔して
頑張ってきたからセブンブリッジに入って皆が揃った
こと誰よりも喜んでた剣ちゃんだったから…」


握り拳に爪が食い込む。

それぐらいしないと、次の言葉が紡げそうになかったから。



「その笑顔を壊したくなかったのよ…」


ちゃん。

ここに来て。


アタシにどうしたらいいか教えて。


剣ちゃんを止めなくちゃって思う。


でも、私もまだ彼の球を受けたいの…。



紅印がそう思っても、がくるはずがない。


それに、この決断をたとえであれ、任せてはいけないと
心の底では分かっていた。



「剣菱」


そこに、ワンタンが紅印の隣に立った。

ワンタンは留学生だからワイルドジョーカーズを知らない。

本当は、剣菱が病気だったことも最初のうちは知る事はなかった。

だから、剣菱の異変に気づいたのも、ワンタンが最初だった。


「朕も知ってる…剣菱は胸にバクダン抱えてるから秘密兵器ね」


秘密兵器は、使う場所がなければ埋もれる存在。


あえて監督がそう称したのは、剣菱のため。


「でもそれ爆発させたら駄目!!剣菱は皆の中心、
太陽なのヨ!なくなったらみんな真っ暗になってしまう!!」


「そうだ。もう無理すんな。むしろ普通の奴以上に
体張ってきたじゃねーかお前は」


ワンタンに続いて影州が剣菱を止めようとする。


「ブゴオオン」


土本も同じようなことを言っているのだろう。


剣菱の頭に漆黒の髪に縁取られた顔でため息を吐いていた
が浮かんできた。


ちゃん。

ちゃんは、こうなる事を知ってても俺の意思を
尊重してくれたんだね。

伏せられていた瞼の下の目は、俺の為に決められた覚悟の色が
浮かんでいたのだろう。



「ありがとう。今まで…皆知ってて俺を自由にして
くれていたんだね。

心配かけさせてゴメン…みんなの言うとおり
ここが俺の潮時なのかな…」


俺は、最後の最後までマウンドにいたい。


「でもお願いだよ。せめてこの試合だけは俺に最後まで
投げさせてくれ!!

ここまで来たらもう少し…ほんの少しだけ
最後のわがままを許して欲しいんだ!!」


これで、本当の最後だから…。


























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