#25
「しかし、どうして天竜が打たれたのだ?全然わかんないのだ」
「鹿目先輩、球の影です」
は説明をし始めた。
「高低差のとり難さを抜かせば、普通のバッティングで
打てる影での見極めは確かに有効です。それでも、1打席
でファールにならない打球を打てるとは思いませんでした」
鹿目は成程とマウンドを顧みた。
ベンチからでは小さな影を見つけることは出来ない。
打者は上に飛ぶ球に気をとられるから下をみることはない。
天竜とは灯台下暗しを活かした球だったのだ。
「後2点リード、早くこの雰囲気を払拭したいところなのだ」
「同感です」
鹿目とはそう言い合うが、事態はそう上手く運ばなかった。
「七橋は剣菱だけじゃねーんだよ!」
ギィィィン
5番影州、ヒットで1塁へ。
「ブッゴオォォォ」
土本も続いてヒットを出し、影州2塁、土本1塁で
2人のランナーを出してしまう。
「犬君の引きずりがまた顔出してきました」
はそろそろ変えるべきかと思案し始める。
「この回、変えるのは難しい。もう下位打線だから後
1アウトとれるだろう」
「そうですね。残り3人はそこまで打撃に特出してませんから」
だが、十二支は隠れ玉が七橋にあるとは考えもしなかった。
前の天竜を完璧に打ち込まれたことが心理的に影響
しておるな。これでかき回せるランナーが出た訳だ。
もはや天竜は使えまい…叩くなら今じゃな。
東蘭風は決断を下した。
「皆の者集まるのじゃ。三葉もすまんが戻れ」
次の打者として立っていた三葉もヘルメットを脱ぎながら
ベンチへと引き返してきた。
「よいか…これより7.8.9番の下位打線を総入れ替えにする。
守備重視戦形を攻撃強化戦形に切り換える刻がきたのじゃ」
下位打線に属する富豪、蜂火、三葉の3人は目を丸くした。
「こうする事で七橋が誇っていた守備層は薄くなって
しまうじゃろう。
その事は手痛いが、今大会でこれ程の失点は始めてじゃ。
一刻も早くリードし、優位に立っておきたい。
今大会初の打棒三人衆の出番というわけじゃ」
七橋の視線が呼ばれた3人に集まった。
「2年宝町一直」
「どぇーす!!最高ですよ〜監督さ〜ん!!」
南国旅行中風味の麻黒の男は嬉しそうに雄叫びをあげた。
「2年古家日会」
「『我思う故に我あり』この試合であては"本当の自分"
を見つけますよって」
静かな雰囲気で哲学書を閉じる平安貴族風の男性は
デカルトの名言を唱える。
「2年兜鍬光」
「うそだ…うそだ…3年の先輩達をさしおいてこの僕が…」
カブトムシを腕に乗っけている少年は動揺している様子。
「じゃ、頼むぜ」
富豪は宝町にそう伝え、グラウンドから降りる。
「お疲れでーす」
「公式戦で一緒にやるのは久しぶりだね。守りは任せて一直
たちはガンガンいっちゃってくれよ」
剣菱は本当に嬉しそうに宝町にそう言った。
「・・・へへっ剣菱さんまた役立てて嬉しいっす」
くすぐったそうな笑顔の宝町。
「…あれ?監督、相手側に変化出たみたいですよ」
はベンチへと降りていく富豪、蜂火、三葉と入れ替わり
にグラウンドに出てきた派手な格好したサンバ男を見た。
「んじゃ、まず先輩方愛のお料理でドバーンと精つけて
いきませんか〜?イイ仕事しますよ〜お料理最高ぉ〜!!」
両手に包丁持ってくるくる回す。
それを聞きつけて富豪は。
「じゃあ俺激辛キムチカレー頼むわ」
ワンタンは。
「朕ネ朕ネ冷やし中華食べたいヨ〜」
雀は。
「楓樹液入焼菓子所望」
・・・おそらくホットケーキだろう。
数分後。
「……怒ってきてもいいですか?」
見た目も組み合わせも最悪の料理に怒気をかもし出す。
「さんが怒ってもしょうがないっす!
落ち着きましょう!!」
子津は慌ててをなだめるようにベンチに座らせた。
「だってあんなに醤油も胡椒も入れて、煮えたぎった鍋は風味
を落とすし、料理する者としては一からやり直させたいくらいよ!」
「あの・・・私もちゃんの気持ちわかっちゃいます」
凪もおずおず手を上げる。
やはりここは女同士、料理はちょっと煩かった。
ここから、七橋の逆襲劇が始まる。
NEXT