#26









『7番三葉君に代わって2年宝町君』


包丁の時と同じく両手でバットを回して宝町は
打席へと入った。


「皆さ〜ん最高ですか〜!?」


料理は見た目最悪でした。


「なあなああんな所にうどん先輩の弟がいるぞ〜」


意地悪っぽく由太郎はそう揶揄した。


「オーイ!俺あんなのに似てるの!?」


小饂飩は心外そうに声を荒げるが、ぶっちゃけ似てます。



「あの人この大会では初出場ですね。バットの持ち方も
独特ですし」


右手に左手を添えて持っている。

犬飼が振りかぶり、投げた。

球種は飛竜。


ほっほ〜こいつが飛竜ですか。こりゃぁイキの良い。

こーいう素材ならこんな捌き方はどうでしょ〜。

適当流包丁術"白球三枚大名おろし"


「最高ですね〜!!」


スッパアァァン


『打った〜!ピッチャーの頭上を越えセンター前に落ちた〜!!
七橋これで3連続ヒットで満塁!!』


「最高ですか皆さ〜ん!」

「最低だバカヤロー!」


ファーストで叫ぶ宝町に言い返す猿野。

まさしく十二支の気持ちだった。

「総入れ替え、つまりここで逆転狙いしてますね」

「守備より攻撃をとったって所だな。鳥居が投げるならば
まず打てないという確信の元の采配だ」


羊谷とはそう会話するが、ピッチャーの交換を今
する気はまったく起きていなかった。

「古家…出番じゃぞ」


東蘭風に急かされて古家はしおりを挟んだ。


「『人間は自分が他人より劣っているのは能力のためでなく、
運のためだと思いたがるものなのだ・・・』
古代ギリシャの
哲学者、プルタルコスのお言葉どすえ」


パタンと本をとじ、古家はベンチから立ち上がった。


「へ〜ビミョーにタメになる言葉だな」

「おおきに剣菱はん。ほんならほ一つみつくろいましょか?」


褒められて嬉しかったのか古家は剣菱にそう聞いた。


「いや、いいよ。ただ…能力があっても運でどうにもできなく
なる人はいる。
俺はそう思うよ」


それは、誰を思っての言葉だろうかと、古家は首を捻るが、
ヘルメットをかぶり、打席へと入っていった。


『8番富豪君に代わって2年古家君』

「『人間は誰でも一握りの自分より優れた人々がいるが、
殆どの人は自分より劣った存在だと信じている』」


ピッチャに対して垂直にバットを構えるその姿は、
剣道の構えを彷彿とさせた。


「何ですか突然・・・?」


訝しそうに辰羅川はそう聞いた。


「ホッブス。イギリスの政治哲学者の残した言葉だよ辰君」


興味をそそられたのか古家はへ視線を移した。


「おや、黒蝶はんは知ってやはる?流石どすな」

「それなりにはですけどね。どちらかというと私の方が
流石京都の方と言いたいです」


京都は古くから学問の栄えた都市。

学問の多様性ならば江戸時代であってもトップを誇っていた。


「この状況…あんはんなら、どんな言葉を選びなはる?」


ツーアウト満塁。

それは責任重大な場面。

少し考えて、は言の葉を紡いだ。


「夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを
雲のいづこに 月宿るらむ」


はそう詠んで返した。


涼やかに、流れるようにその和歌は会場に流れた。


「…ほんまに、流石どすな」


剣菱はん達が、黒蝶に惹かれなはる理由を垣間
見れた気がしまっせ。


古家は意を捉えたらしく、打席に集中した。



「魁君、君の詠んだ歌は一体?」


緋慈華汰は和歌の意味を問いただした。


「清原深養父(きよはらのふかやぶ)清少納言の曽祖父が
詠ったものだ」


月見を夫婦でしていた夏の夜はいつの間にかに明けてしまっていた。

それを惜しんで詠われたもの。


「夏の月見と夏の試合。どの様な場面でもいつかは通り過ぎて
しまうという意味では選んだのだろうな」


まったく、西洋の哲学に日本の歌で返すとは、
なんともらしい。


魁は古家と同じような苦笑を漏らした。




















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