#12
「あれ〜ビミョーに振るの遅れたかな〜」
「あれで振り遅れた!?」
剣菱の物言いには驚くしかない。
「獅子川先輩も平気ですかー!?」
はグラウンドの最奥にいる獅子川に聞こえるように
声を張り上げる。
「いッて〜なんてパワフルな打球なんだ。
猿野がグローブごと持ッてかれたのも分かるぜ」
あ、平気そう。
猿野の時の様に獅子川に新しいグラブを渡した
ついでには犬飼と辰羅川の話にまざる。
「とりあえず奴をこれ以上球に慣れさせるとやっかいだな」
「使うの?」
はそう問うた。犬飼は頷きでそれに答える。
「そ、それはまだ1回ですよ!?時期尚早では!?」
「ううん。打たれれば点を取られるなら、早くても
使うべきだと思う」
辰羅川も心の隅でそう思っていたのか、その案を承諾した。
『さあ1回表セブンブリッジの攻撃はツーアウト1塁で4番
鳥居君。この信じられない急速差にも食らいついています!!』
アナウンスが途切れると剣菱は薄く微笑して
犬飼へ言葉を投げかける。
「君は本当にいいピッチャーだ。ますます打って
みたくなったよ」
「光栄すね…だが、そのホームラン予告はガセに終わる」
「監督、あれを出すそうです」
は監督にそれだけ伝えた。
「そうか、子津見てろ。犬飼は新技を出す気だ」
手が振り上がり、大きく上に突きだした。
『な…なんと犬飼君の球は天高く上空へ!!これは一体
どうした事だ〜!?大事な場面でとんでもない暴投!!
この隙に1塁ランナーの中宮くんすかさずスタート!』
「そんなに力むからすっぽ抜けるのよ」
あざ笑うかのような言葉は、次の瞬間に消えて無くなった。
「ランナーが1塁なら走られても問題ないもの」
この球の真価はここからです。
さあ降りてこい!天空の竜よ!!
天に住まう双頭の竜を落とすのは私たちだ!!
一定の距離にくると、鹿目のカミソリの如く
落ちてくる球はまるで流れ星のよう。
ドオオン
ミットに落ちてきた球は少ししてからその勢いを収めた。
「ストライクバッターアウトチェンジ!!」
『み、見逃し三振だ〜!!なんと上からストライク
ゾーンを通過していきました〜!!』
こんな球世界中探したとしてもお目にはかかれない。
この試合中に弱点を見つけるのは困難。
「あ、あれが奴の新秘球だったのか?」
「とんでもねぇ高さから落ちてきたな!」
味方であっても敵であっても大騒ぎ。
「…やられたよ。まさか空から球が降るなんて」
剣菱はまだ空を仰いでいる。
「そう、これが天より降臨する超空中投法
第三の秘球"天竜"」
「よーし、1回は良く守り切れました。今度はこっちが
攻めましょう!昨日の話は覚えてますね?
ウサギ君、用意はいい?」
「OKだよ〜!今日の僕はちょ〜と止まれそうにないよー」
『1回裏十二支の攻撃1番センター兎丸君。今大会で1・2
の出塁率を誇る大会屈指の俊足バッターが打席に入ります』
兎丸はバットを頭に乗せて、更にその上にヘルメットを
乗せ、バランスの良さを見せつける。
「へっへー大会で1番なんてトーゼンだよ。
全国でだって1番になる自信あるもんねー」
「スバガキ〜この試合もお前の足で掻き回したれ〜!」
「兎丸君頼んだっすよ〜!」
味方の応援に熱が入る中、敵校セブンブリッジの
スタンド側がブーイングを入れる。
「おいおい大会1の俊足たぁ聞き捨てなんねーな!」
「7Bの1番バッター霧咲先輩には誰も敵う訳がねぇ!」
「蜘蛛走脚に勝る走りなんて見たことないもんな」
確かに、霧咲の走りには兎丸に劣らないものがある。
ああ、この人ね…忘れてたや。それにちゃんの
事もあるし、尚更見せつけてやんなくちゃ。
だからこそ、敵対心と競争心が煽られる。
兎丸は身を屈めて靴ひもを解いた。
そして、靴下を靴に丸めてそのままベンチに投げ渡す。
「ちょっとそれ預かっててくんない?」
「素足でいくの?面白いね、やってきなよ」
「うん、ちゃーんと見ててねちゃん」
「勿論」
は兎丸ににっこり笑ってみせる。
兎丸もそれに満面の笑みで答えた。
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