#06 屋上





私たちは談笑しながら屋上に続く階段に上っていく。

カツンカツンと階段に響く足音と雑談の声がリズムを作ってる。


「凪、後の子達はどんな子なの?」

「はい。清熊もみじさんはとても元気で頼もしい感じの子で
猫湖檜さんはとても静かで、タロット占いが得意なんですよ」

「へー私も占ってもらえないかな」

「きっとしてくれますよ」

そういっている間に屋上の扉の前まで来た。

ガチャ





ドアを開けたら

………………戦場でした。



随分ゴツイ女性…女装した男性が鉞(まさかり)もって小学生を
追いかけてヘアバンダナの少年…子津君と青髪のイヤホン少年
がオロオロしてる。

「おほほほーー待ちなさーい。今日はウサギ鍋じゃーーー」

「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!」

うわぁ可哀想。


「凪、私たち屋上に来たのよね」

「えっええ。あのーあまり気になさずにいたほうが…」

気にするわ!!なんなの?!私に何をしろと?
ココはひとまず……私の精神の安寧をとるか。

思い立ったが吉日。多分つーか間違いなくこの元凶であろう
鉞女装野郎の方に向かった。

「凪、危ないから下がって」

「え?ちゃん?」

「凪ー。わりぃ遅れた」「どうしたの…かも?」

ドアの前に2人増えた。
1人は少し性格が男っぽいパワフルそうな子と
猫のぬいぐるみを持っているかわいい感じの子。

「清熊さんに猫湖さんだね?2人も下がっててね」

「「は?」」

「子津君に青髪君にどこから入ったか分からない小学生。ちょっとどいていてね」

「え?さん?!」

子津君はチョイと吃驚。それでも後ずさりしてその場所から避ける。
懸命だ。

「はーい」

あっ小学生思ったより結構余裕そう。

青髪君はそそくさと端っこに行く。こっちも良い判断だ。

「いっきまーっす」

「え、ちゃん!?」

私は凪の止める声を気に止めず、行動を開始した。

少し助走を付け、蹴りをいれる。







「往ってこい」

ドゴオッ!!「へブシッ!!」



良し!!思ったより綺麗に決まった。

腹部でしかも稲妻(急所名)にもろ入ったから結構効いた様だ。

「さっ猿野さん大丈夫ですか?」

凪は鉞女装野郎に駆け寄った。あれ?知り合いだったんだ。意外や意外。

「お姉ちゃんアリガトー」

小学生と青髪君が近づいてきた。

「どういたしまして」

「お前、今の蹴り凄いな!!」

「ありがとう。2人は清熊もみじちゃんと猫湖檜ちゃんで当たり?」

「ああ」「そう…かも」
と肯定(?)の返事が返ってきた。

「かも?」

「かもは猫湖さんの口癖なんっす」

「子津君。あれって何?」

 いまだに倒れて凪に看病されている。摩訶不思議な生物を指差す。

「1−Bの猿野君っす。猿野君がお弁当忘れて落ち込んでる所に
兎丸君がちょっかいかけたらああなったっす」

「ちゃんと自分たちで止めてよ。そこの小学生が可哀想で
思わず蹴っちゃったじゃない」

「僕の手には負えきれないんす。さんが来てくれて丁度良かったっす」

「子津君はツッコミと驚き上手だからねー」

ガチャ。またドアが開いた。次は誰だ?

「遅れて申し訳ありません」
「とりあえず……疲れた……」

「あら犬君、と、そちらは誰?」

……何か憔悴しきってる犬君とモミアゲが面白いメガネの人が入ってきた。

あれ?そういえば、見た事あるな。犬君に背負われてた人か?
人数随分多いな。10人?この人数でお昼を食べるのか?




ひとまず皆落ち着いてきたので各々好きな場所に座り、
ご飯を食べながら談笑を始めた。

皆野球部に所属していて昨日の事件で私の名前は知っている。
なんと恥ずかしい覚えられ方だ。


「えーと私はこの中の人ちゃんと知ってるのは子津君と凪
だけだから自己紹介よろしく」

「俺達はさっきしたからいいよな」

「うん。2人とも名前呼びでもいい?私もでいいからさ」

「もちろん!!」「いい…かも」

良し!!了解が得られた!!もみじと檜ね。

「では私から。辰羅川信二です」

ナイスモミアゲでメガネ君の辰羅川君。でもこの苗字長くて言い難い。

「辰羅川君ね。長いから辰君でいい?」

「はい。構いませんよ」

こっちからも良い返事がもらえて一安心。

「犬飼冥だ」
「犬君は朝方ぶり」
「とりあえず、何で犬君なんだ?」
「なんか犬っぽいし」

でも止めてくれとは言われてないからこのあだ名も続行。

「兎丸比乃だよ。小学生じゃなくて高校生だからね。兎に丸いって書くんだ」
兎丸君は見た目小学生で緑色の帽子を被っている。
でも小さくてかわいいのは変わらない事実だね。

「だからウサギ鍋か。兎丸君、ウサギ君って呼ぶのはいい?」

「いいよ。ぼくはちゃんって呼んでもいい?」
「もちろん」

「隣の子は司馬葵君。話すのが苦手なんだ」

司馬君は綺麗な青い髪をしていて耳にイヤホンを付けている。

「そうなんだ。よろしくね司馬君」
「(ニコリ)」

挨拶のお返しは微笑。
言葉で表すより態度で示すか。それも又良いんじゃない?

「最後は俺様、猿野天国!!伝説を破った男だ!!」

最後は先程の鉞女装男。普通にしていればこの個性が集まりまっくった格好
の人の中では普通に見えるが、頭の方は飛びぬけて迷惑極まりない。

…にしても、急所にいれたのにもう回復してるとは凄いな。

ん?そういえば伝説って……。

「伝説ってあの時計の?」

「おう!!」

……へぇ。お義父さんの伝説をね…。
破られたのは知ってたけどコイツだったんだ。
……でもムカつくな。


「だったらもう少しそれらしい態度をとってね。お猿君」


あ〜おもわず喧嘩売っちゃったよ。返品可だけど…。

「何?!」



……やっぱり買うよね。見た目からして買いそうだもん。
私はTPO+人によるけど。

「少なくとも第一印象あなたは一番最悪だから。
思わず精神保護本能が働いて回し蹴りしちゃったわよ」

高校入ってから今までは大人しくしてたのにな。
もう破れちゃった。

「とりあえず…良くやった」 
「どうも犬君」

ずっとしゃべりっぱなしで喉が渇いたのでペットボトルの
キャップを取り、お茶を飲む。

犬君はお猿君の事あまり好きじゃないみたいね。
まさに犬猿の仲ってところなんだろう。

「まあ、初対面で猿野のギャグ見たらそうなるよな」

もみじも同士か。後は、辰君あたりもそんな感じがするな。


「も、もみじちゃん。確かに猿野さんは変わっていますが」

凪は何とか弁明しようとはしているが、逆効果のようだ。
凪の言葉を聞いて、お猿君は落ち込んでいる。
もしかしなても凪が好きなのか。


「コレで全員ね」



「今度はちゃんの事もぼくは聞きたいなー」

「そうですね」「とりあえず…同感だ」「(コクコク)」
「じゃあ質問形式。何か質問は?」

「ハーイ」

元気良く兎丸が手をあげる。その姿はやはり小学生だ。

「はい。ウサギ君」

「昨日の監督の言ってたあの事って何?「聞かないで」

間髪を入れずにとはまさにこの事だろう。それほど回答が早かった。

「なぜ、監督はさんをマネージャーにしたいのでしょうか?」

辰君の質問にはちょっと考えて、意を決して答えた。

「ヒント私は昔、黒蝶っていう二つ名があった。
それが分かれば何となく分かると思うよ」

「「「「??!!」」」」


鳥居、辰羅川、犬飼、司馬がその言葉に反応した。

「ちょっちょっと待ってくださいさん」

辰羅川は下がった眼鏡を上げながら待ったをかける。

「それは……」
「あの女子ソフトボールの王者の…」

凪は驚きを隠せないようだ。それは犬飼も同様。

「……」
「司馬君がその人、守備の女神って聞いたことがあるって」

何で分かるんだウサギ君!!司馬君しゃべってないよ?!
あの時のお坊さん風な人といい、ココの奴らといい、
変わった奴らが多すぎだ野球部!!
文芸部も変わった人多いと思ったけど、ココまでではないぞ!!

心の中の激しい葛藤が巻き起こっているが、
それは心の中に閉まっておく事に決めた。

いつか言う機会があるだろうし、先にこの話を済ませてしまおう。

「うん。それ私、2年の時に辞めちゃったけどね」
「ええ。当時は男子ソフトボールまで辞めた理由に
ついて色々な噂や憶測が飛び交いましたよ」

「ちょっと待って。その黒蝶って何だ?」

猿野が話に付いていけず、説明を求める。


「黒蝶は中学女子ソフトボールの2年連続全国覇者、
六龍中と中学女子ソフト選抜の要でした。
その名の由来は長く美しい漆黒の髪が動く度に揺れる姿が
蝶の羽を連想させたそうです。

それほど彼女は美しい素晴らしい動きをしていた。
打・投・守・走すべてにおいてトップレベル。
そのうち守備に関しては中学生にしてオリンピック選手に劣らない力を持ち、
打撃では中学女子ソフトボール最高ホームラン打数保持者でもあります」

「私たちソフトボール部では知らぬ人はいない憧れの的でもありました。
でも、黒蝶は2年の新人戦を最後に忽然と姿を消しました」

「その黒蝶が、お前なのか?」

「うん。辞めた後に髪型変えたし、試合中は野球帽をいつも被ってたから、
分かる人は早々はいないけど」

「そういえば、黒蝶の名もでしたね」


名前知ってたんだったら、そこで気が付くでしょうに。
辰君はどこか抜けてるね。


「何でそんなに凄いのに辞めちゃったの?勿体無い」

ウサギ君の言葉は私の心に刃を付きつけた。

「…私はもうバットもボールも触る資格はないよ」

「でも…「占ってみる…かも」

「え?」

「私、を占ってみたいかも…」

「やってみろよ。檜の占いは良くあたるからな」

「別に…いいよ」





その言葉を皮切りに皆黙って檜の一挙一動を見守った。

どんな結果が出るんだろう。ちょっと怖いかも。

「出ました。猫神様からのお告げにゃー。審判のカードにゃー。

キーワードは決定、判決、再び、新世代、回復にゃー。

貴女はこれから過去に囚われ、その清算をしなくちゃいけないにゃー。

でも強い精神力を持って向かえばいい方向に向かっていくにゃー」

……決定、判決、再びか。私の中では有罪確定なのにな。

 キーーン コーーン カーーン コーーン

「話は又後でですね」

皆は各々片付けをし、教室に戻る。

立ち上がり、屋上から出ようよすると服が引っ張られる感覚がした。

後ろを振り返ると檜が先程のカードを私に差し出していた。

「持ってて欲しい…かも」

「いいの?」

「うん…かも」

これが彼女なりの心配と優しさの表し方だと気付いた。

「アリガト」

かわいいなー。檜と共に最後尾を歩き、
先程まで騒がしかった屋上に静けさが戻ってきた。








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