は叫びたかった。
そう、思いっきり叫びたくなった。
「カイトもジンさんも大馬鹿野郎―――!!!」
望月が光る夜、は倒した密猟者及び密輸関係者を
床に放っておいて夕日にでなく月に叫んだ。
+*+*
「かかかか、そら災難だったな!」
モラウは大きな口を開けて笑い飛ばす。
ハンターの1次試験官だったノヴが本で顔を隠し
ながら肩を小刻みに揺らして笑っている。
彼らはハンター協会本部の待合室で雑談、否、の
愚痴を聞いていた。
は不機嫌全開で出されたお茶を一気飲みした。
「その通りです!何が何事も経験!?手柄独り占め!?
ただ単に暴れた後の面倒ごと私に押し付けただけじゃない―!!」
事の発端は一ヶ月前だろうか。
ちょっと鍛錬がてらに森を走っていたら、矢が足に
刺さった濃い緑毛の…おそらくウサギと、それを追い
かける密猟者を見つけて捕縛し、ウサギを保護した。
ウサギは命の別状はなかったが、調べてみても現存する
種類ではなさそうなので生物調査を得意とする恋人の
カイトと、念の先生のジンを呼んでそのウサギを見て
もらった。
そうしたら数百年前に絶滅したはずのファルシラウサギと
特色が合致していると判明した。
ついでに捕まえた密猟者を尋問して仲間と密輸をしている
貿易会社の秘密会合を聞いたので奇襲をかけて一網打尽
にした。
そこまではいいんだ。
問題は……。
「よし、俺達がやるのはここまでだ」
「残りは頑張れよ」
それだけ言い残して、2人は素晴らしい脚力を披露して
闇に溶け込んでいった。
そして数秒後、今度はの咆哮が闇に溶け込んでいった。
「まあまあ、いいじゃねーか。絶滅したと思ってた
ファルシラウサギの再発見に密輸組織の壊滅。
それにルルカ文字の解読で3つでかい功績作れたんだ。
まだプロになって1年未満とは思えない出来だぜ」
モラウはの肩をバンッと叩いて元気付かせる。
「そうですね。それだけでなく、プロになる前に盗難
された"神に見初められた淑女"の奪還の件もあり
ますし、シングルハンターも夢の話ではないでしょう」
パタンとハードカバーの本を閉じるノヴ。
は大きく深呼吸してふかふかの1人掛けソファーに
背中を預けた。
「そんな大層な証もらっても使い道がないんです。
そういうのが嫌だからジンさんとカイトが私に後始末
押し付けたってのもあるでしょうし」
それでも貿易会社倒産の経済的影響とか、ハンター協会や学会
でのファルシラウサギ説明とか、密輸・密猟者の裁判関係の証言
とか…まあそういった雑務が嫌なのが一番だろうけど。
野球部のマネージャーして雑務得意になっておいて良かった…。
雑務が得意になるほど仕事を押し付けられていたことに
気づくのは一体いつのことになるのやら…。
+*+*
数ヵ月後、の元に一通の手紙が届いた。
それには、ハンター協会からシングルハンター認定式
へ出席するようにとの旨が書かれていた。
プロハンター名、 本名=
最年少・最速でシングルハンター認定。
+*+*
「でーもー、よくも私一人置いてってくれたわね〜」
恨み言を言う為だけにカキン国奥地までやってきた
は青筋浮かべてカイトに顔を近づけた。
それでもカイトは平常を崩さない。
「元々が見つけたんだ。俺やジンさんが横取りする
訳にいかないだろうが。よれより一つ星獲得おめでとさん」
そう言ってカイトはに軽くキスした。
「……ありがと」
「またバカップルやってるわね、あの2人」
のお土産の風船ガムをぷくーと膨らませて
スピンはぼやいた。
「ううう馬に蹴られたくないので離れておきましょう」
勿論、リンの判断に否を言う奴は誰一人としていなかった。