日本には元々興味があった。
キョウトで売られていたミズヨーカンが上手かった。
ちょっと立ち寄ったブックストアーで買った日本庭園図解
は中々良かった。
それに、マリアンヌ様の子供たちが往ってしまった地だ。
幼い主たちが日本に送られるのを、俺は阻止できなかった。
当時の俺はただの一臣下にしては出すぎたマネを多くした。
日本と帝国の関係は、古びたつり橋を渡るよりも危険をはら
んだもので、お二人を単身でその地に渡らせるなど、持って
の他だったから。
それでも、ルルーシュ様とナナリー様は宮廷から消えた。
守るべき者が、すべていなくなった。
それから暫くして、ルルーシュ様もナナリー様も戦禍の中で
死んだと、コーネリア様から聞いた。
俺はユーフェミア様の泣き腫らした目元が少しでも落ち着く
ように、冷たいタオルで拭いてやることしかできなかった。
でも死体は見つかっていないと言うので、俺は日本―現在
名称エリア11―への赴任募集に真っ先に飛びついた。
ただ、あの方々が生きてるかもしれないという願望は、
無数に転がる屍の山を見て、あっけなく消えてしまったが…。
+*
「異常なし。今日もナイス筋肉だワドル中尉!
ただ若干肝臓に負担かかってるから酒は控えろよ」
「ありがとよ先生!
だが酒は人生の楽しみだから止めらんねえな」
「その気持ちはよく分かるからつまみ大目にするとかしてくれ。
後は自己責任だ」
軍部の身体検査は大掛かりだ。
身長体重内科視覚聴覚までなら普通の学校でもやる検査だが、
これに加えてレントゲン・採血・新ワクチン接種・ナイトメア
適性検査等々受ける方も検査する方も勘弁してくれな勢いの忙しさ。
俺は内科とナイトメア適性だけだからまだ楽だがな。
「えーと次は…ああ何だスザクか。おら入ってこい」
カルテの名前を見て部屋に入る許可を出すと、
丁寧にノック2回してからドアは開いた。
「お久しぶりですさん」
「2ヶ月ぶりってとこだな。最近は怪我してない様で結構だ」
日本人っぽくない柔らかなブラウンの髪とグリーンの目の
これは枢木スザク一等兵。
ムサイ男の中じゃ目立ちまくる容姿。
そして、皇族の方々を抜かせばルルーシュ様とナナリー様
の話が出来る唯一の人間だ。
「でもさんがどうして下級兵の検査にまわってるんですか?
仮にも侯爵なんですよね?」
スザクはTシャツを胸の上までまくったので俺は聴診器を
あてながら深呼吸するよう命令した。
「この間ちょっとだけ上の奴と喧嘩してその罰則。
少し論文の訂正してやっただけなんだけどな。
ってか爵位は軍の連中には秘密にしてんだから言うな。
呼吸も正常、目の充血もない何よりお前の胴体に痣なしは珍しいな。
異常なしだ」
「ありがとうございました」
「ギリギリになる前に俺のとこ来いよ。お前がいなくなったら
丁度いい話相手がいなくなるんだからな」
スザクは俺の台詞にありがとうと言ったが、
グリーンの目は一瞬濁った。
身体に異常はないが、精神は要治療の見本みたいな奴だ。
いくら暴行を受けても仕返さないのは、それが罰の一種だから
と認識しているからでないかと俺は推測している。
『……父さんっ!』
一度、苦しそうに吐いた単語。
奴の自虐願望の根本は父親か。
でもスザクの父親、枢木ゲンブは7年前に自害している。
ホント、厭らしい意味でなくカワイイ奴だからなんとか
してやりたい……あ。
「イイ事思いついた」
よし。仕事終ったらロイドの所へコレ持っていこう。
きっとロイドは喜ぶ。
スザクは喜ぶかどうかは微妙だが、まあ何もできない今の
状態よりはなんとかなるかもしれない。
そうすれば、あの屍の山を思い出すような、
虚ろな目を見なくて済む。