魁は母親にへの郵便物を預かり、の部屋へと向う。
「、入るぞ」
の返事が無い事に疑問を感じながら部屋と廊下の仕切る障子を開ける。
「……寝てしまったのか」
魁の目に入ってきたのはパソコンをつけっ放しで机に突っ伏して寝ているの姿。
十二支の野球部に入って、随分疲れていたようだ。
「このままでは風邪を引いてしまうな」
魁は寝ているへ近づき、郵便物を机に置く。
そして、の背中と膝裏に手を入れて軽々と持ち上げた。
いわゆるお姫様抱っこだ。
そこまでされてもは起きる様子は無い。
そして寝床へとを運び、降ろして布団をかける。
安らかに寝息をたてるの顔を良く見えるように邪魔な前髪を避ける。
子供と大人の中間。
子供の様なあどけなさが覗える中にも大人へと近づくほのかな色香が見え隠れする。
魁は…しばらくそのままを眺めていた。
「…拙者は、が離れて行ってしまう時、耐える事が出来ないのだろうな」
これほど今この時を至福を感じ、が離れてしまう時を考えると、
それだけで胸が張り裂けそうになる。
彼女が離れていくのが、必要とされなくなる事がこの上なく恐ろしい。
「かくとだに えやはいぶきの さしも草
さしもしらじな 燃ゆる思ひを
藤原実方」
それだけを残し、魁はの部屋を出る。
あれ以上あの場にいたら…自分が何をするか分からないから。
は、その歌を聞きいてはいない。
静かに、規則正しい寝息をたてて、夢を貪るだけ。
(訳)
『このとおり』とだけでも伝えたいが、どうして言えるだろうか。
伊吹山のさしも草のように燃えている私の思いを、貴方はそれほどとは存知ておらぬだろう。
END