ズドン。
魁の放った球が由太郎の構えているミットに収まる。
普通のキャッチャーでは耐えられないであろうほどの重い球。
魁だからこそ投げられる。由太郎だからこそその球を受けられる。
だからこのバッテリーは兄弟という点を含めて、これ以上ないほど相性が良いのだろう。
「魁兄、ユタ。お菓子とお茶持ってきたよー。休憩しよー」
魁、由太郎の鍛錬の最中、は作った和菓子とお茶を楕円形のお盆に乗せ、2人に休むよう声をかけた。
2人は切のいい所だったのですぐにの居る縁側へとやってきて、お菓子とお茶に舌づつみをうつ。
そこに、庭に植えてある赤く彩ったもみじが1枚、はらりと地へと落ちていく。
「奥山に もみじ踏み分け 鳴く鹿の
声聞くときぞ 秋は悲しき
猿丸太夫」
魁はその様子に趣を感じ、懐から1枚の札を取り出して1首読む。
「兄ちゃん、また百人一首か?」
由太郎は聞きながらの持ってきた茶菓子を口に運ぶ。
「じゃあ私は
心なき 身にもあわれは 知られけり
鴫立つ沢の 秋の夕暮れ」
「西行か。それもまた、趣のある歌だ」
魁はお茶に口をつける。
「百人一首もいいけど、あれは恋歌多くて私は歌い難いんだよねー」
それでいいのか青春と受験戦争真っ盛りの中学3年生。
「兄ちゃーん、ー。俺が話に入れないんだけどー」
由太郎は仲間はずれにされたのが悔しいのか、頬を膨らませで抗議する。
その様子はまだまだ幼さを感じさせる。
「だったらちゃんと勉強しなよ。私達は受験生で、もう半年後は高校生だよ?」
「の言う通りだぞ由太郎」
「う〜〜」
痛い所を突かれて由太郎は唸る。
「唸ってる場合じゃないよ。ユタは魁兄と同じ黒選に入りたいんだったらもっと頑張りな」
「そういやぁ、は何処受けるんだ?」
ずっと何処を受けようか決まらなかった夏休みのを思い出す。
今はそれほど悩んでいるように見えないので大体は決まったのであろう。
「うん。やっぱり妥当に十二支受けるかなー。黒選は男子校だから入れないしね」
今は、野球も弱小校だし、入っても野球に関わる事は無いであろう。
その思惑に2人は気付いたのかは、分からない。
「由太郎、そろそろ鍛錬再開するか」
「おう!!」
2人は立ち上がる。
「頑張ってねー」
魁と由太郎は庭へと戻り、はお盆を持ち直す。
3人の兄弟の、ある日常の出来事。