OLD MEMORY
「大神さん、雪さん平気?」
はちょっと心配そうにグラウンドに寝転がる高校生二人を
見下ろすようにして話しかけた。
長い黒の髪が二人の顔の辺りに影を作って仄かな涼しさが心地よい。
「ちょっと自分に自信なくなってきたよ…」
白雪は汗を流して湿っぽい前髪を掻き揚げた。
疲れた様子の濃い表情はそれでも笑みを絶やさない。
「くそー何でアウトとれないんだ〜〜!?」
大神は悔しそうに頭を掻き回し、はそれをみてくすくすと笑う。
「私の十八番は完璧打率だもん。そっちにリスク負ってもらった
上にまだ未完成な球な球じゃ負ける気ないよー」
ちなみに大神と白雪は5Kmのマラソン後に1打席勝負をしました。
「にしても、小学校4年生の女の子に勝てないのは
心理的にもやっぱり辛いよ」
そうは言ってもへらへらした笑い方は変わらずに白雪はしゃべる。
「へへへ、これからは女の子もBIGになる時代なんですよーだ。
男の子にも負けてられないよー」
「俺の台詞マネられた!?」
「マネしちゃった」
大神は自分の口癖を真似されてショックを受ける。
はその反応を予想していたらしく面白そうに笑い声をあげた。
「でも、この球の完成はまだまだかかりそうだね」
大神は白雪の言葉に頷いてから起き上がって
転がっている球を1つ手にとった。
「そうだな。名前も全然考えてないし、1つじゃ
つまんないから3つ4つ他のも覚えたいよな」
「それとね、肩のとこがもっと丁寧にやってみたほうがいいよ」
「ちゃんはそういう所気がついてくれるからありがたいよなー。
そんじゃもうちょい筋力増やすか」
の意見を素直に受け入れて大神はこれからの
練習メニューを考えている。
「…ねぇ、何で今年2人とも試合出れないの?
遠目から見ても2人の方が野球上手だよ」
の前々から持っていた疑問に大神と白雪は眉を顰めた。
「それができない上下関係があるんだよな」
「本当にムカつくけどね」
大神と白雪は同時に重い呼吸を吐いた。
「高校生って大変なんだね…」
「ちゃんの親父さん世代はそんな事なかったのにな、何でなんだろうな」
「分からないよ。父さんもお義父さんも何にも話してくれないから」
父さんの方は楽しかった中でも寂しそうな笑顔をする時があったけれど……。
「……いつか私も十二支に入るのかな」
は2人と同じようにぺたりと地面に座り込んだ。
いつか、私もこの2人くらいに大きくなれるのかな。
そうしたら、もっと大神さん達と同じ高さで一緒にいられるかな。
「ちゃんなら大神と違って動物の名前なしでも入れるよ」
白雪はうんうん首を縦に振る。
可愛がっている妹分が同じ学校に進学しようと
考えてくれるのが嬉しいらしい。
「大神=オオカミ=狼で通っちゃうんだから変な話だよね」
「なあお前ら、遠まわしに俺馬鹿にしてないか?」
「してないもん」
はすぐにそれを否定するが。
「ちょっとからかってるだけだよね」
白雪は混ぜ返して楽しんだ。
「白雪〜!お前人で遊ぶなよ!!」
「あはは無理無理〜」
「私は大神さんで遊んでないもん!」
十二支高校のすぐ近くの河原の草野球場に
笑い声と怒鳴り声とそれをどうしようか悩んでる声が響く。
それから7年後、は言ったとおりに十二支高校に入学した。
その時には、もうこの微笑ましい3人の光景が繰り返される事
はできなくなっていた。
「……お猿君に犬君!喧嘩してたら練習の邪魔!!」
それでも、は笑う、怒る、泣く、悲しむ、微笑む。
自分らしさを失わずにあの2人と同じように同じ場所で過ごしている。
「さて、今日も頑張りますか」
沢山の汗と涙を染み込ませたグラウンド。
彼女は、ここにまた1つ新しい時間を過ごしてゆく。
「まだまだBIGになる道は程遠いか」
ね、大神さん。
+*+*コメント*+*+
練習風景を“見る”でなく“参加する”になっててゴメンなさい。
ヒロインの性格を先行させたらもうこうなってました。
お持ち帰りはソーダ様のみになります。
by紙屋水樹