不愉快 「ゼロ、なあゼロってば」 深紅の髪をした子供がベシベシと仮面を叩く。 くるりとリスのような目をしたたった10歳の子供は 黒の騎士団のジャケットを着ているのを見れば 分かるとおり、俺の駒の1つだ。 ただ、チェスで言うならポーン―歩兵―ではなく、ルーク―戦車―と、 利用価値の高い部類だ。 それだけ、こいつの能力は使用頻度が高く、重要だから。 「何だやかましい。また菓子ねだりか?いい加減食べ飽きろ。 そのうちCCみたいになったらこっちが困る」 からかう様に言ってやるとはむっとした顔をしてソファの 背もたれから降りた。 「僕はあそこまでピザで生きてないよ。 この間さ、枢木スザクに会ったんだ。 そのことだけは報告しとこうと思ってさ」 マントに隠れたゼロの肩が揺れる。 「どこで?」 「租界の中にあるアッシュフォード学園って知ってる? 僕が働いてるペットショップにキャットタワーの注文が入ってね。 注文先がそこだったんだ。 そしたらそこで受け取った一人がスザクだった。 ああ、それと河口湖で人質になってたオレンジの髪の子と 三つ編みの子もいたな。その子達には僕が黒の騎士団だって 気づかなかったみたいだけど」 アーサーのあれか。会長のポケットマネーだったから何も 言わなかったが、まさかこんな偶然があるとはな。 「それはそうだろう。普通、10歳はレジスタンスの活動を している歳じゃない」 「えー別にいいじゃん。元の日本に戻りたいって気持ち は皆と同じなんだよ。 それともゼロは僕はいらない? 僕の力は役立たない?」 「いいや。その演技力と情報収集能力は私に必要だ」 俺の絶対遵守の力のような、不思議な力をは持っている。 のは遠視・遠聴能力。 実験結果では半径20km内なら小声であっても、針ほど小さなもの でも察知できるようだ。 しかし、能力発動時は本来の視界・聴覚範囲はシャットダウン されるから、前線には出せない。 それでもリアルタイムに敵陣を覗けるし、 自軍の位置が正確に把握できる。 盤上の把握をより確かなものにするために、この能力は絶大だ。 の説明によると、は時折異能力者が生まれる家系で、 深紅の髪は選ばれた能力者だけが持つ、誇りで、鎖で、目印だと。 CCはは俺よりも自分に近いモノと判断したらしく、 には随分気を許している。 それはおそらく、同病相哀れむといったものだが。 「ならここにいてもいいよね。 話戻すけど、そこでスザクに騎士団を抜けるように説得されたんだ」 「『今ならまだ軍は幼い君まで気を払わない。 こんな無意味な事はもう止めるんだ』」 はスザクの声真似をしてみせ、俺はその光景が いとも簡単に想像できた。 の異能とは違う、もう一つの戦力。演技力によって俺は 学園の中にいて、とスザクが向かい合っているような 感覚を与えられた。 「嫌だ。僕は自分の国と死んだ仲間の為にゼロに付いてく。 ゼロのやってることは無意味なんかじゃない。 元にさっきのお姉さん達は死なずにすんだじゃないか。 知ってる?ホテルジャックの人たちは次落とすのは 三つ編みの子にしようとしてたんだよ。 “イレブン”って呼んだからって理由で。 ブリタニア人だからってそんな理由で死なせるなんて可哀想だ」 スザクはぐっと唇を噛んでから、いつもの持論を言う。 「でも、間違った事で得た結果に意味はない」 「僕の昔の仲間はブリタニアのハーフの子もいたんだ。 だからブリタニア人の血が悪いなんて言えないよ。 でも、シンジュクで僕の仲間を殺したのは許せない。 7年前の戦火で親を失ったお兄さんは怒りを押し込めて働いたお金 で僕にパンをくれた。その人は軍人に銃で撃たれて死んだ。 イレブンだから何をしてもいいって言って右足を切られた女の子は きっと来年を見る事は出来なかった。 でも頑張って生きてたのに、サザーランドで踏み潰して殺した。 僕と一緒にスリをしていた奴は逃げてる途中ではぐれた。 3日後にね、服も剥ぎ取られて全裸で死んでたよ。 こんな世界を変えたいって思うのに、それを実行しようとする のが悪いことなの? 悪い事をする国から自分の国を救いたいってことが 間違ったことなの?」 子供の純粋さは時にもっとも残酷なものになる。 スザクはの体躯にあわせるようにかがんで、 包み込むように抱き込んだ。 「『ゴメン』」 には見えなかったが、スザクは悲痛な顔をした。 声も、とても辛そうだった。 「なんで謝るの?」 ゼロの前にいるは、ゼロの手と自分の手を重ねた。 「『僕が、ブリタニアを変えるから。 もう、そんな辛いことにならないように。 君が、大切な人を失わないように』」 「……スザクは他の軍人みたいに、“死”を笑わないんだね」 ここで初めて、はスザクの名を呼んだ。 「謝るならひとつお願いしてもいい? 僕がもし、軍に殺されるなら、スザクが僕を殺してよ」 最も、スザクにとってこれ以上ないほど残酷な願い。 「僕は笑って殺されるのは嫌だ。 スザクは優しいから、僕を殺す時も、 そうやって辛い顔をしてくれるよね。 そして、僕が生きてた事も、 殺した事も全部覚えててくれるよね?」 パンッと手を打つ音で俺は現実に戻ってきた。 白昼夢をみたような感覚がまだ残っている。 何故今スザクかここにいないのかが不思議になるほどだ。 は震えていた俺の手から自分の手を離して、 俺のマントの裾をすっと持ち上げた。 「僕はこの戦いの中で死ぬ事も覚悟してるよ。 見たい世界を見れないまま死ぬ事を。 でもさ、僕を殺す相手は僕が認めた相手がいい。 ゼロ・CC・カレン・コーネリア・それとスザク。 コーネリアは敵の大将だけど、命を賭けて戦える姿勢は大好きだ。 ゼロとCCとカレンは仲間として大好きで、出来れば3人が 死ぬところは見たくないから、先に死にたいんだ。 でねゼロ。もうちょっとスザクを戦いの盤上から 廃するのは待ってね。 スザクはきっと仲間になったら最高の騎士になるよ。 僕はまだ小さくてこのマントの側にいるしかできないけど、 スザクは全部の火の粉を払えるナイトになるから」 「お前は女だろ。ナイトになる必要はない」 「えーお姫様とかお后様よりもナイトがいいよ。 黙って税金使ってればOKな人たちになるなんてまっぴらゴメンだ。 だから僕は分かってゼロの駒になるんだ。 僕を捨てる必要があるなら捨てていいよ。 それが他の人たちとゼロの為になるならね。 ただ、その時はちゃんとゼロの手で殺してくれなきゃ嫌だけど」 「殺しはしない。殺させもしない」 そんな不愉快な展開になる前に、俺が全てを手に入れてみせるさ。