ドリーム小説

IF 風邪を引きました。

十二支編


金槌で打たれるような痛みの頭痛。
嘔吐感と腹痛はまだないが、体力の落ちる
夕方頃になればそれらも体を痛めつけてくるだろう。

「さん保健室行くべきっすよ。
僕、先生に行ってついてくっす」

額を押さえて机に突っ伏すに、子津は
心底心配している言葉を言った。

「でも、後一時間で授業終るし……」
「そんな真っ赤な顔してまで出る必要ないっすよ!
熱あるんじゃないっすか?」

頬がピンク色に染まって、汗ばんだ肌。
表現だけなら運動した後のようにも思えるが、
健康な時と今との違いを子津はしっかり見分けていた。

「そんな状態じゃ見てるこっちも辛いっす。
さんならそれくらい、分かってるんじゃないんすか?」

ぐっと風邪の症状とは違う痛みが胸にきた。
確かに、私が子津君の立場でもそう言う。
私の心が揺れたのが分かったのか
子津君は凪に向き直って頷きあった。
そして凪は「失礼します」と言って私のカバンの荷物を
整理して子津君は私を立ち上がらせた。
立ちくらみがして、子津君の腕に支えられる。



「こんなになるまでほっとくなんて、ちゃんらしく
ありませんね」
「同感っす」
「ご、ごめんなさい」

保健室の白いベットに寝かされ、凪は布団の上から
私の体をぽんと叩いた。

「私達はそろそろ教室もどりますけど、ちゃんと
休んで下さいね。家には先生が連絡してくれるそうです」

コクンと首を縦に振って、目を閉じた。
冷えピタの冷たさが気持ちよい。

実は、は元来それほど体が丈夫な訳でもない。
風邪なんて年に1回は引くし、精神的なことが
体調に関わる事も何度か経験している。
……そのお陰で命が助かったし。

母と父が死んだ時、本当はも出張先に
ついていくはずであった。
理由は出張期間がそれなりに長かったことと、
できるだけ家族は一緒にいた方がいいという
教育方針があったらしい。
しかし、は日本に残った。
出かける前日にが熱を出したから。
仕方なく村中家には預けられ、そのまま
暮らすことになるのは、1週間後の話。

…もし、あの時熱を出さなければ私も死んでいた。
……熱を出さなければ、両親と最後まで一緒にいられた。
どちらが私にとっての幸いだったかと聞かれれば
間違いなく前者だ。
私を好きと言ってくれる人がいる限りは、私は生きてても
いいんじゃないかと、私自身に言い聞かせる。

……そうでもないと、重荷でぺしゃんこに潰されてしまう。


うつらうつら、甘い睡眠欲が瞼を重くしていく。
完全に瞳が暗くなって、泥の様に眠った。



「死なないで、生きてて良かったって胸張って言えるなぁ」


迎えに来たお義母さんに起こされ、上半身を起こすと、
一枚のルーズリーフがとんだ。

風邪引いてるんじゃねーよアホ 猿野
↑馬鹿は風邪引かないから風邪の辛さがわかんない
兄ちゃんの言葉なんか気にしなくていーよ。 比乃
ゆっくり休んでね。 司馬
カバンに数学のノートと宿題のプリント入れておきました。
熱、早く下げて下さいね。 鳥居
今日明日の練習メニューはこちらで調整します。
何も考えずに寝て治しなさい。 辰羅川。
とりあえず、大丈夫か? 犬飼

風邪にはネギが一番たい。袋ごと持っていってよか。 猪里
休める時に休むのは悪いことじゃねーんだZe。 虎鉄

疲れてるなら疲れてる。辛いなら辛いとはっきり
言うべきなのだ。 鹿目
休養する也。 蛇神
数日間は朝練と放課後練習参加は控えるように。
体は大事な資本だよ。 牛尾

シャーペンで書かれた文字はどれも暖かい。
好かれていると実感できる瞬間ほど、
幸福なことはないんじゃないだろうか。

「いいお友達ができて良かったわね」

お義母さんは本当に嬉しそうに微笑んだ。

……風邪をひいてラッキーと思うのは、心配してくれ
てる人たちに失礼だけど、やっぱり心配されてる
くすぐったさは気分がいい。



後日談

「久しく顔を見せないと思ったら風邪引いてやってくる
とは、ますます肝が据わってきたな我が弟子」
「ごめんなさい師匠。お願いですから内科の管轄で
メスを持たないで下さい」


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