水中庭園1周年記念




彼に合う記念日〔行事〕は?






「魁兄は大晦日が似合うかな?」


は文芸部提出用の小説のネタに行き詰って魁相手に
他愛もない話を持ちかけてきた。


「その意図とは?」

「魁兄の十八番障子張りの特技を大いに生かせ、
尚且つその怪力でお掃除で大活躍だから」


それでは体の良い便利屋ではないのか?

そう思わなくもないのだが、役に立てるので
あればそれでも良いかと思い直しておく。


「それに、お掃除も年越し蕎麦もおせちも年賀状書きも忙しい事全部
終わって夜にのんびりするあの雰囲気が魁兄っぽいなって思うの」


ノートパソコンに羅列した文字。

手書きよりもそっけない揃えられた文体だが、
自分の空想を何かしらカタチにする楽しさが
再現されてある。



書いてあるのはありがちな初恋物語。

帰宅部の男子中学生が主人公、雨の日に帰り道を歩いていると
道路のわき道にピンクのビニール傘を差した女の子が座り込んでいた。


「水色の携帯電話を見ませんでしたか?」


王道を進んでみようと挑戦した話のクライマックスは
女の子の余命が短い事を知った少年の気持ちを文章に
するのが難しくてタイプする手が止まってしまった。

何もできない悔しさも。

自分の気持ちを伝えてもどうしようもない悲しさも。

それでも女の子が好きな気持ちを変えられない
自身の気持ちの愚かしさも。

書いても書いても他の話と同じような展開になってしまう。

少年の気持ちは、こうじゃないと分かっているのに。



「言葉で言うのが難しい雰囲気って沢山あるの。

こういった感情があるんだけど、当てはめるべき
単語も比喩も見つからない。

大晦日のひと段落した雰囲気もその1つなの」


年越しの為にお坊さんだって走るのが師走・・・12月だ。

でもそこでは忙しいという言葉以外の何かがあるように思えてならない。


「その何かが、拙者に似合っていると、そう解釈して良いか?」

「大正解」


カレンダーを張替え、居間に家族が揃って時計と睨めっこ。

ふんわりでもなく、ほっとした、でもなく、でも落ち着いた雰囲気で

ちょっとした緊張のある余裕。



「時を大事にする魁兄には、その仕切りとなる大晦日が1番
似合ってると私は思うよ」


少年と女の子に必要なのは、多分大晦日の夜の雰囲気。


「我侭だけど、魁兄はこれからもその雰囲気でいてほしいよ」


カタカタ

タイプを打ち終え、ノートパソコンの電源を切った。


生まれてくれてありがとう。


魂の消えた女の子の手を握り、少年はそれだけを言った。





END




++コメント(フリー配布時削除許可)++

水中庭園内アンケート堂々第2位村中魁夢でした。
フリー夢に相応しからぬシリアスモード。
しかし、シリアス&ギャグ両方書いてこその黒蝶伝説。
お持ち帰りは6月いっぱいまで可です。
ちなみに報告は任意。


BY紙屋水樹