霧咲雀Ver
6月下旬。空から ポタリ ポタリ と雫が落ちてくる。
梅雨に入ったこの時期、年がら年中雨が降って野球部には
グラウンドで練習ができないという大打撃がやってくる。
校舎の中で出来る練習は限られているし、運動部が場所の取り合い
をして範囲も当然限られてくる上とても狭い。その為、人数減らしの為
にも色々な雑用をこの間に済ませようとするのが効率的………と、
言われて傘をさして指定された店へと部活で使う足りなくなった
用具やら救急箱の中身の補充やらを買いに出かける事になった。
今回の買出し係は霧咲雀。何故、レギュラーがこんな雑用
しなくちゃいけないのかはよくわかっていない。
いつもバラバラだから東蘭風監督のおでこのトランプ
によって決まっているのかもしれない。
霧咲は傘をさしながらゆっくりとした足取りで店を目指す。
「梅雨 不快」
彼の飼っているタランチュラは湿度がちょうど良いのか
この季節は活発に活動するのに対し、飼い主の霧咲は
練習も思うように出来ない、髪も湿気で落ち着かない等の
不快要素たっぷりの梅雨を憎らしくさえ思っていた。
そんな中で外に出るなどそれこそいつも以上に愛想という
単語が更に縁のないものとなっている。
指定を受けた店は只今開店5周年記念で全品5%引き。
つまり消費税なしでなんとも部費に優しく、少し学校から遠くても
赴く価値はあると思うのは会計で数字を見る人間だけ。
行く方は少し高くても近いところで早く済ませてしまいたい。
店に着いて中に入るとどん帳を下ろしたかのような暗い外とは
打って変わった照明による明るい光に目を細める。
「照明 過度」
目をしぱしぱと何回も瞬きをしてその光に慣れさせる。
このぐらいならば大丈夫であろうと思い、数十個重なっているカゴ
の一番上を取ろうとすると、反対側からも手が伸びてきた。
見覚えのある指なしグローブを着用しているその手は
自分と比べると幾分も小さな手。
その先を目で追うと、その手の持ち主と目があった。
「霧咲さん」
それはこの間自分の学校に訪れた少女、。
「お久しぶりです。霧咲さんもお買い物ですか?」
はカゴを2つとって片方を霧咲へと渡した。
「部活備品 購入目的」
それを受け取りながら返答を返す霧咲。
その会話で使われる言葉は単語のみで慣れた者で
ない限りは会話を成立させることも困難なものだ。
「私も同じですよ。だったら一緒に回りますか?」
それをいとも簡単に理解してしまうには霧咲は
素直に賞賛を感じた。
「了承」
霧咲とはそのまま一緒に商品売り場を歩いていく。
回っていると、彼女のカゴに入るものと自分の指定されて
入れているものの違いに気づかされた。
「、何故 高価品 購入?」
の手にしている商品は自分の持つものよりも高い。
普通ならば安い物を買うのではないのだろうか。
「ふっふっふ、甘いですね霧咲さん。
確かに値段はそっちの方が安いのですが、容量・品質は
こちらの方が断然上でしかもこれはメーカーの方でも
キャンペーン中なので5個買うと4個分の値段になる
という今が買い時商品なのですよ」
不適に笑いながら手にもつ商品のお買い得さを
コマーシャルするにはある意味の覇気があった。
「納得。我 商品変更」
それならば大いに理解できる。専業主婦並の
買い物情報を持っていると関心してしまう。
彼女を黒蝶として見ていた時と今のと
して見ている時の差に自分の中でも戸惑いを覚える。
まだ自分たちが一年だった時、初めて見たあの国際戦の
ビデオで見た彼女は、中学生の力量ではあり得ない異才を
放ち、グラウンドを支配するまさに黒蝶と呼ばれるに
ふさわしい存在だった。相手も国を代表する選手なのに、
彼女の率いるチームの前では形無しであった。
…………悔しい。それが正直な感想。
自分も守備に関しては誰にも負けない自信を持っていた、
しかし、黒蝶と比べると見劣りしてしまうのが分かってしまった。
今のセブンブリッジが急成長を遂げたのも、そのビデオに
触発された人間が多かったのもあるはずだ。
この間の剣菱との一球勝負で、更にその勢いが増したのは
誰もが気づいている。
黒蝶、否、の影響力はチームだけの問題ではない。
自分もまた、に惹かれているのは薄々感づいている。
「 質問 返答要求」
「質問?なんですか?」
テクテクと歩くに突然の質問を投げかける霧咲に
首を傾げる。
「何故 呼名 苗字 我 限定?」
そう、何故か自分だけなのだ。
セブンブリッジの中で苗字で呼ばれているのは。
「何でって、剣菱さんは鳥居で凪と一緒だし、紅印さんと影州さんも
同じ理由。ワンタンさんは自分から呼んで欲しいって言われて、
土本さんは、土本が苗字じゃないんですか?」
「否、土本 名前。苗字 空環」
の言葉に簡潔に訂正をいれる。
「え!?そうなんですか?ワンタンさんに紹介された時
土本としか言ってなかったからてっきり……」
はカゴからスーパーの袋へと買ったものを入れる手が止まった。
「……呼名 雀 決定」
「え?名前で呼んでいいんですか?」
「我 呼名変更 決定」
ドウヤラ自分が遅れを取っているという訳ではなさそうだ。
だったら今の内にすこしでも距離を縮めて置きたい。
「いいですよ。雨も上がりましたし、帰りましょうか」
はカゴを戻して袋を腕に通す。もう一方を持とうと
すると雀が先にとってしまう。
「我 荷物 運搬 補助」
「……ありがとうございます雀さん」
彼女は黒蝶であれ、であれ、自分にとって最高に大切な人。
「勝利 獲得希望」
たとえ、幼馴染達が相手であれ、負ける訳にはいかないのだ。
1つ、心中に新しいすべき事を見つけた時には
雨上がりの空は澄んだ青をしていた。
++コメント++
霧咲雀の台詞が難しい…。
雀のタランチュラは熱帯気候のタランチュライメージしてます。
でも管理人はクモは大きいのは怖いです。
ここのヒロインはまったく恐れません。
動物関係は何でも来いです。
by紙屋水樹