梅雨での出来事。
鳥居剣菱Ver
6月下旬。空から ポタリ ポタリ と雫が落ちてくる。
梅雨に入ったこの時期、年がら年中雨が降って野球部には
グラウンドで練習ができないという大打撃がやってくる。
校舎の中で出来る練習は限られているし、
運動部が場所の取り合いをして範囲も限られてくる。
その為、人数減らしのためにも色々な雑用をこの間に
済ませようとするのが効率的……と、言われて傘を
さして指定された店へと部活で使う足りなくなった用具やら
救急箱の中身の補充やらを買いに出かける事になった。
今回その役目をいい使わされたのは鳥居剣菱。
何でレギュラーがそんな事をやらされるのかはよくわからない。
「うひゃ〜。ビミョーに濡れる〜」
一段と強くなってきた雨に不快感を感じざる得ない。
早く終わらせて帰ろうと足を急がせる。
指定を受けた店は只今開店5周年記念で全品5%引き。
つまり消費税なしでなんとも部費に優しく、
少し学校から遠くても赴く価値はあるというのが会計を
任される者が考える事なのだが、行く方としては面倒な事この上ない。
店の隅に傘を立てかけ、自動ドアを通り抜ける。
「あれ、剣菱さん」
後ろから声をかけられる。その声は聞き覚えがある、というよりか
忘れることは自分に許さないと思っている凛とした
聴きやすい女の声。剣菱は内心胸を高鳴らせながら振り向く。
「ちゃん、ビミョーにおひさ〜。ちゃんも買い物?」
いつのようにゆるい声にうれしいと一目でわかる顔で
へと向き直る剣菱。
「こんにちは。『も』ってことは剣菱さんも買い物ですか」
は2枚の自動ドアの間に置いてあるカゴを2つ出して
1つは剣菱に渡す。
「ビミョーにありがと〜。だったら一緒に買い物しない?野球部のでしょ?」
「そうですよ。マネージャー全員でじゃんけんしたら負けちゃいました」
まさか8人でじゃんけんして一発一人負けするなんて……。
その時の光景を思い出すとあの時出した握りこぶしがとても憎らしい。
「だったら俺はラッキーだったな〜。俺はここでちゃん
に会えて嬉しいもん」
ビミョーに梅雨万歳って気分?歩いてた時のめんどくささが嘘みたいだね。
「そう言ってくれるんならまだ救いはありますかね」
は包帯とコールドスプレーをカゴに何個か入れる。
剣菱もメモをみて、コールドスプレーを3本自分のカゴに入れた。
それからも店内を世間話をしながら回っていく。
大体は野球の話。どこの選手が要注意だとか、プロ野球で日本一を
とるのはあの球団かそれともこっちの球団かとか他愛無いものばかり。
その中で剣菱の妹での友達である凪の話が剣菱から出てこなかったのは、
は不思議に思はないでもなかった。
剣菱さんの事だから真っ先に凪の学校生活の話とか聞いてくると思ったのに。
確かに普段の剣菱ならその話題をいの一番に出すだろう。
しかし、いくら妹であれ、好きな女の子の前で他の女の子を話題にするのは
いくら剣菱でもする気は起きなかった。
会計を済ませて店からでると、剣菱は自分の傘が
なくなっている事に気がついた。
置いたはずの場所には傘に付いていた雨の残りが垂れて
コンクリートを塗らした跡があるだけだった。
「あちゃ〜。ビミョーに盗まれたかな〜」
傘買って帰ろうかな。でもこれ以上増やしたくないよな〜。
雨が降ればすぐに買えてしまうため、寮内の傘バケツはすでに満杯に
なっている事とすでに会計を済まして空に近い財布事情を考えると、
頭を悩ませてしまう。
「剣菱さん、なんなら入っていきますか?」
はすっと傘を肩ほどまで持ち上げそれを指差す。
「いいの?」
「どうせウチも校内で筋トレとかくらいしかしてないでしょうし」
「だったらビミョーにお願いするね〜」
変な感じだけど、傘を盗んだ奴にビミョーに感謝!!
部活も思うように出来なくて憂鬱な気分になる梅雨の中で、
梅雨に感謝した珍しい一日だった。
++コメント++
梅雨シリーズ剣菱verでした。
番外希望第一位のセブンブリッジの話数を稼ぐ為に書かれた話です。
中学時代は水泳部だったのでその時の雨練習を
思い出してしまう内容となりました。
雨の降る静けさとか冷たさは好きでしたが、
やっぱり練習は外でやるのが一番です。
by紙屋水樹