17.手を伸ばして伸ばして。それでもまだ、届かない。





どんなに悔やんでも、どんなに手を伸ばそうと
努力しても決して彼らに触れる事はもうない。

さんと鷲坂が無くなってもう2ヶ月が過ぎた。

納骨も終わって葬式は一段落したけれど
後の問題は彼らの一人娘、の存在。

あんまりな扱いになるのであれば僕が引き取っても良かったんだけど、
鷲坂の親戚で村中さんと言う有名な野球選手が彼女を引き取ろうと奔走中だ。

どうしてもさんの親戚にはを渡したくない。

そう言っていた。

理由はよく分からないが、ちゃんは村中家の方が幸せになれると僕も思う。

「ようやくちゃんも4歳なのにね…」


彼らが死んだ時はちゃんは3歳だったんだけど。


「りょーてーてー」


舌っ足らずで僕を呼んでくれたのはつい最近だったのに。


「陵刀先生、に変なこと教えないで下さいよ?」


からいつもそう忠告されていたのもつい最近。


「先輩、って本当に可愛くてしょうがないんですよ」


鷲坂が親バカにそう何回も口にしていたのもたった2ヶ月前。


「りょーとーせんせー。てんごくのじゅうしょおしえてほしいの」

納骨の日にそう言って4つ折りにしたスケッチブックの
厚紙をちゃんは僕に手渡した。




ままとぱぱにあわせてください。

ままとぱぱがいないのはいやです。

いないとみんなさみしいです。

てんごくのままとぱぱかえしてください。

おねがいします。




オレンジ色のクレヨンで書かれた文字は
綺麗に書こうと頑張ったのが見て分かる。

涙が溢れそうになった。

自分だけじゃなくて、周りも悲しいのを
あの幼い子供は気づいていた。

それでも、死を理解するにはまだほど遠い。

ちゃんの精一杯の努力のカタチに
僕の涙が1つの染みになった。


「りょーとーせんせーはすごいってパパいってたよ。
はくしきだって。はくしきっていろんなことしってる
っていみでしょ?てんごくのじゅうしょもしってる?」


ごめんね。

そう言うしか無かった。








住所を知らない手紙は今も僕の机の中にある。





「陵刀先生!」

「はいはい何?ちゃん」

「もう、ホント面倒な事はとことん逃げる人ですね。
鉄生先生が呼んでましたよ」


あれから10年。

ちゃんはさんと顔が良く似てて、色素は鷲坂と同じで、
二人みたいに賢いのに馬鹿みたいにまっすぐに育った。

“三つ子の魂百まで”とは良く言ったものだ。



「いつも思うんですけど、私一般人なのに
こんな建物の中まで入っていいんですかね?」


最近、願掛けで切ったという前より短くなった綺麗な
黒い髪がさらさらと揺れている。

辛い事があったのは間違いないが、それでもちゃんは
自分に出来ることを自分なり探している。


ちゃんなんだからいいんだよ」

「…そんなものですか?」

「そんなものなんだよ」



いないとみんなさみしいです。


もう、大丈夫だよ。寂しくないよ。

君がこんなにも立派に成長してくれたから。






END



++コメント++
黒蝶ヒロインのサイドストーリーです。
夢になってないですけど(汗一応…WLの陵刀夢です。
鷲坂は旦那の旧姓です。陵刀と同じ司という名前なので
婿養子で結婚してからも職場では旧姓を使用していました。


by紙屋水樹