#08 過去の糸





私は急いだ。早くに会いたくて、
の家は東京の郊外、埼玉のココからなら1時間もあれば着ける。

でも気持ちが焦る。又、逃げてしまいそうで、1年以上も逃げ続けた。

馬鹿な自分をもう見たくなくて、自分が傷付けた人を見るのが辛くて…。


ピンポンパンポン
と放送のチャイムが入る。

『……乗車中のお客様にお願いです。電車内では携帯の電源をお切り下さい』

私はアナウンスにはっと気づいて顔を上げる。


「あっと忘れてた」

そしてポケットからケータイを取り出した。

あっ。

一枚のカードがヒラヒラと空中を舞った。

「檜から預かったヤツだ」

『審判のカードのキーワードは決定、判決、再び、新世代、回復にゃー』

ホント檜の占いって当たるんだな。

カードを一通り眺め、又ポケットに仕舞う。次が到着駅だ。

心は安定しているとは言い難い。

しかし、ココまで来て戻るなんて事はしない。

『次は青春台です』

扉が開くとすぐに階段を駆け上った。

切符を改札口のオジさんに投げるように渡す。

後ろで怒っている声が聞こえるが気にしないで走った。



早く、早く、早く!!貴女に会いたくて。

もう一度しっかりとこの目で見て、この口で謝りたい!!

もう貴女は私が分からないとしても!!

もう一度、会いたい!!


家の場所はあなたの話で聞いただけで、良く分からない。

でも走って走って走って探す。

目まぐるしく周りの風景は通り過ぎていく。走って1時間ほど。

それなのにもう息切れが始まった。

昔より息が切れるのが早い。でも、もう少しで着く。

さっき目印と言っていた青学中を通りすぎた。

そう考えているうちに、薄い青色の屋根が見えていた。

あそこだ!!



「はぁはぁはぁ」


心臓の音がまるで耳のそばにあるかのように良く聞こえる。

息を整えながら前に建つ家を眺める。手入れが行き届いていて綺麗な庭。

綺麗な薄い青の屋根。『加西』と書かれている表札。

間違いなくここだ。


大きく深呼吸を一回。良し。チャイムを押そうと手を伸ばした。

ピーンポーン

「ハーイ」

熟成した大人の女性の元気な返事が聞こえてきた。



『貴女の所為よ!!』



怖い。怖い。怖い。

でも、逃げない!!逃げたくない!!



「はい、どちらさ……ちゃん」

「こっ今晩は。夜分遅くにすみません。

いえ、私がここに入ること自体、悪いのは分かっているつもりです!!

でも、やっとにちゃんと向き合えるようになろうと思って…ッ」

最後の方は理性のコップから水は溢れ出し、
涙声で聞き取りにくい状態になっていた。

加西のおばさんの手がこちらに伸びてきた。



叩かれる!!

そう思い硬く目とつぶる。

しかし、感じたのは痛烈な痛みではなく、

暖かい手が私の頬を撫でていた。


「こちらこそ、ゴメンなさい。あの時、パニックになっちゃって貴女に辛く
当たった事ずっと後悔していたの。アレは事故だったのに」

私は違うと言いたくても、声が出なくて
頭を横に振る事で意思を伝えようとした。

「ココにいたら風邪を引くわ。中に上がって」

「はっ…い」

過去の糸の端を見つけることが出来た。解く手段を手に入れた。

                     *

私は叔母さんに言われるままに、靴を脱ぎ、居間に通された。

「ちょっと待っててね」

涙も随分収まってきて普通に声が出るようになった。待つこと5分ほど。

叔母さんは紅茶の入ったティーカップ3つとお菓子をお盆に乗せ、戻ってきた。

「どうぞ」

「有難うございます」

軽くお辞儀をし、カモミールの香りを漂わせるカップを手に取った。

「今、を連れて来るわ」

いよいよ、過去の糸を解き切る時だ。無意識に体が強張るのを感じる。

「その必要はないよ母さん」

懐かしい声が後ろから聞こえてきた。私は急いで振り返る。そこには。

「久しぶり、

懐かしい。顔と声が、私のあだ名を呼ぶ。

!!私が分かるの?」

ガタッと座っていた椅子からは勢いよく立ち上がった。

それだけ、最後に会ったと違う
昔のであることに驚いたのだ。


「もうバッチリ!!…とまではいかないけど、
チームメイトでその中でも相棒のあんたの事位は分かるさ」

は昔のように悪戯っ子のような笑い方をした。

……糸は完全に解け切った。


、ゴメン。本当に…私があの時投げなければ!!」

勢い良く言葉が流れて来る。言いたかった事がすべて。しかし、

「このお馬鹿!!」

スパシン!!

どこから出したのか、巨大ハリセンで頭を叩かれた。

その様子を生で見ていた叔母さんは唖然としている。

「アレはしょうがないでしょ!!
怪我とアクシデントなんて気にしてたらソフトなんて出来るか!!
それが当たり所が悪くて記憶喪失になったって悪いのは
雪でコンディション最悪だった事・それなのに外で練習させた監督
・次がとアタシ自身!!

そんなもんなのよ!!分かったらメソメソすんな!!
黒蝶の名も泣くぞ!!」

「ごっごめんなさーい!!」

……怖えぇ!!でも、だ!!

紛れもなくこのマシンガントークはだ!!

「泣くなら、アタシが記憶が戻った事にうれし泣きしなさい!!」

その言葉を聴いた瞬間、ぴたりと私の涙は止まった。

「〜〜〜なんでそこで泣きやむのよ〜〜〜!!!」

が私の肩を掴んで揺らしまくる。

、近所迷惑よ!!」

叔母さんはを叱りつける。

「だって、ホントにだって感じちゃって安心しちゃったんだよ〜〜」

ピタッ。の動きが止まった。もしかして……。

可愛いなーもーvvvvvv」

「やっぱりーーー!!」


感情が高ぶると人に抱きつくのも戻ってしまったらしい。

でも、やっぱこうじゃないと。やっと糸が取れた。



「何?」

「ソフトもうしてないってホント?」

「……うん。が元に戻るまではバットを握らないって」

「やだよ、またやってよ。あたしはのプレーの大ファンなんだよ?」

「といってもウチの高校、ソフト部ないよ」

「やれ」

「強制っすか」

「すぐじゃなくてもいいからさ。また、一緒にやろうよ相棒」

「考えておく」

『キーワードは決定、判決、再び、新世代、回復にゃー』

檜の占い凄いわ。ホント。



                       1部END









あとがき